*9×*8
「なあ。*8、頼むよ。行くなよ」*9はどうしようもないばかだ。そんな今にも泣きだしそうな顔して、声をふるわせて、行くなって必死に俺の手を握る。ちがうだろう。行くのは俺じゃない、おまえだろう。「ガキじゃないんだ聞き分けろ*9。いいか?世の中には役割ってもんがあるんだ。俺は踏み台、主役はおまえと*0。それがこの世界の約束なんだよ」「聞きたくない。約束なんて、知らない。知りたくもない」「*9。いつまでも駄々をこねるなよ。おまえはここにいちゃいけないんだ。行くんだ。俺から」「言うな」握られていた手ごと体を引き寄せられ、*9の胸にぶつかった。そのまま、まるで腕の中に閉じこめるかのように強く抱きしめられる。だから、ちがうんだよ。俺はどこにも行かないよ。おまえが、この手を離して行かなきゃだめなんだよ。「駄々ってなんだよ。俺はこんなに、心臓が痛いほどおまえが好きで、おまえだって同じじゃないのか?それを離れるのがいやだっていうのはわがままなのか?なあ、なにが間違ってるんだよ」 間違っていない。なにひとつ間違っちゃいない。でもだめなんだよ。世界はそれを許しちゃくれない。なにをどうしたって俺は*8で、おまえは*9だ。おまえだって本当はちゃんとわかっているんだろう?
「*9」*9の腕の拘束を全力で振りはらう。涙、いまは出るなよ。まだだ。ここが勝負どきなんだ。どうか顔がうまくつくれていることを願った。「俺がいままでおまえのそばにいたのはおまえが*9で俺が*8だからだ。ただ仕事をこなしていたにすぎないんだよ」俺さ、これでもおまえが*9で、俺が*8でよかったと思ってるんだ。だって*8は*9のために存在してるようなもんだから。おまえがおおきく飛び立つ踏み台になれるんなら、それ以上のしあわせなんて他にないと思うんだ。「個人的な感情で動かれたら迷惑なんだよね。こっちは真面目にやってんだ。最後まで仕事ちゃんとやらせてくれよ」*9、泣くなよ。おまえのそういう優しいところ好きだけどさ、最後には笑った顔見せてくれよ。なあ。*9、頼むよ。「さあ、踏みにじって、行け」
このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー と 利用規約 が適用されます。
1文字以上入力してください
本文は少なくとも1文字以上必要です。
1文字以上入力してください。