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裏切り者
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舞台は少し前の時代、東西ドイツ分断間もない頃なんかどうでしょう。
国境を越えようとして逮捕された受けを、攻めが助けるというシチュ。攻めには国境警備隊の長を勤める父親がおり、攻めもその下で働いていて、仲間と肉親を裏切って受けを助けるわけです。
ふたりで逃亡して行くのも萌えですが、この場合、受けは攻めとは別の男、西側にいる攻めBに会いたくて国境を越えようとしていたというのもいい。
三人は幼馴染みだったりして、攻めAも、受けの気持ちが自分には向かない事を知っているし、受けも攻めAの気持ちを知っている。
で、
ガチャガチャと牢獄の鍵の開けられる音に、また取り調べかと瞼を開けるのも億劫に横になったままでいると、
「ヘルムート、ヘルムート!」
良く知った声が名を呼んだ。
「何しに来た?」
幼馴染みのマイヤーだった。
「早く、逃げろ。」
「放っておけよ。」
ヘルムートは抱き起こそうとする手を振り払って言った。
「お前、裏切り者にるなる気か?とっとと帰れ。」
「もう手遅れだよ。」
マイヤーはニヤリと笑って、血の付いたナイフを見せた。
「殺っちまった。看守を数人。一緒に逃げよう。さっ、早く!ルートは確保してある。」
思うように立てないヘルムートにマイヤーは肩をかして歩き出した。
「無理だろ。これじゃ。やっぱり俺は残るからお前だけ行けよ。」
「ヘルムート、お前が生きなきゃ意味がないんだ。」
そして、
逃亡途中、盗んだ軍用車の中で昔の思い出を語り合ったり、ふと二人黙り込んで目を合わすも、すぐに互いに違う方向を眺めたり、でも、お互いの胸の思いは語らない。語ってもどうにもならず、互いを苦しめるだけだということは痛いほど分かっているから。
ふと、マイヤーが言う。
「俺、馬鹿だよな。」
「うん。」
そして、また沈黙。
どうにか国境を越えると、マイヤーはヘルムートの手を握って言った。
「じゃあな。ここからはお前が一人で行け。」
なんとなく予測していた言葉に
「ああ。」
と、答えて、そして、ヘルムートはマイヤーを抱き締めた。
今、越えた国境の向こうから銃声が響くのが聞こえた。
暫く、そうしていた。やがて、マイヤーは涙に濡れたヘルムートの頬を親指で拭い、
「ごめん!」
と、唇に数秒間のキスをすると、顔をそむけ、背を向けて歩き出した。
その背中にヘルムートが言った。
「お前は何処へ行くんだ?」
マイヤーが、振り返らずに答えた。
「さあな。」
少し、その背中を見送っていたヘルムートは、遠ざかって小さくなった人影に叫んだ。
「一緒に行かないか?」
背中から答えが返ってきた。
「Auf Wiedersehen!」
ヘルムートも満身の思いを込めて同じ言葉を返した。
「Auf Wiedersehen!」
『また会おう!』の意味を持つ、ドイツ語のさようならを。
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