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そこにいられたら泣けないだろう ---- 少し前の時代という設定で読んでください。 明日、俺はこの家を出る。 自分が相手方の家に婿として入れば家業が続けられると知った時、最初に頭に浮かんだのは幼馴染の顔だった。 どうしてだろう。ずっと昔から何をやるにも一緒で、俺達の間には秘密なんか無くて、結婚などしたって友情は変わらず続く筈なのに。 意識化であいつを失う事になると思ったのは何故なのだろう。 明日の朝は早いのだからと止める両親をごまかして、学生の頃頻繁に二人で行った川原へと足を向けた。 初めてここにあいつと来た時と同じ流れに、俺は手を差し込んだ。冷たくささやかな流れは自然と学生時代を思い出させて、よくここで愛だの文学だのと語り合ったものだと思い出す。もしかしたらあの頃が一番俺達は幸せだったのかもしれない。 「岩田・・・」 後ろからかかった声に、俺はすぐには振り返らなかった。誰なのかなど、愚問だ。 「座れよ」 自分の隣に視線を向け声の主を促す。いやにゆっくりした動作で影が隣へと動いた。 先ほどから流れにいれていた手を抜き取った。ひんやりと今夜の空気と同じくらい冷えていた。 「明日だな」 「あぁ・・・明日だ」 何のことだ?ととぼけようかとも思った。けれどいやに真剣な相手の声に素直に答えてしまっていた。 沈黙が続く。川の流れる音に包み込まれそうだった。 「・・・・・・岩田。俺、お前に秘密にしていたことがあってな」 静けさを破った声は先ほどの真剣さなど何処吹く風で、今度来る映画の話でもするみたいだ。 「秘密?」 「あぁ。明日になる前に話そうかと思って」 「なんだよ。まさか俺の相手のお嬢さんを実は好いてるってんじゃないだろうな?」 軽い口調だったから、こちらも負けじと言った言葉は空の黒さに吸い込まれていった。 「俺が好いてるのは、お前だ」 おそらく予想はしていた。川原へと向かっている時に運命的な心のざわめきを感じていた。 「この想いを胸にしまったまま、明日の婚礼で俺は笑えない。言ってしまった俺の弱さを笑ってくれ」 自分の体を抱くようにして、俺はあいつの声を聞いていた。訳の分からない感情がこみ上げてくる。鼻の奥がツンとしたのは、寒さのせいではない。 「帰れよ」 「岩田・・・!」 「帰れよ。家に帰れ」 「岩田、お前の心を乱したのなら謝る!!ただ今日だけは、今宵は、一緒にいてくれないか」 「帰れよ!!!そこにいられたら泣けねぇだろうがっ・・・!!」 無言で抱きしめられた。俺は抵抗はしなかった。背中に回った奴の手は暖かくて、俺は必死に服を握った。 今、気がついた。 俺達を結んでいたのは友情なんかじゃなかったんだ。 ----   [[日本史×音楽>4-689]] ----

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