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髪を触る ---- 出てきた彼のあまりにもよれた姿に、僕はただただ溜息を漏らした。 伸び放題の髭。寝癖でぼさぼさの髪。その汚いTシャツは着続けて何日目だ。 「おーういらっしゃい」 「いらっしゃいじゃねぇよ、とっとと風呂入れ」 玄関に無理やり身体をねじ込むように入り、その勢いで彼をすぐ脇のバスルームへ押し込める。 髭剃れよ、髪も洗え、と曇りガラスのこちらから怒鳴ると、くぐもった返事がシャワーの音に掻き消えた。 「ったく、一週間ぶりに連絡してきたと思ったら、『うちに来て髪切ってくれ』ってどういうこった」 「いやぁ、持つべきものは理容師の友人だねぇ」 「タダでこき使ってんじゃねぇ。金取るぞ金」 散乱していたガラクタを隅に押しやり、床に新聞紙を敷き詰めた上に椅子を置いて座らせる。 首まわりにタオルを巻いて、伸びるに任せていたらしい髪を手に取った。 「伸びたなぁ。いつからだっけ」 「んー、忘れた」 「覚えとけよそんくらい。でも、なんでまた急に切ることにしたんだ?」 「しつれん」 さらり、と髪が指の間から滑り落ちる。うまく息継ぎができない。何度か口を開け閉めしていると、かろうじて、オンナノコかてめーは、と声が出た。 「なに、玉砕でもした?」 「いや。どうも、好きな人がいるらしい、って人づてに」 「へぇ」 「だからまぁ、区切り」 うっすらと微笑んでいるのだろう、空気が揺れる。 やめろよ。そんな顔すんなよ。それは、誰のための笑みなんだ。 「次の恋が見つかるまでは、好きでいるけど」 「言えばいいじゃん」 「困らせたくないから」 「それって、痛くねぇ?」 「痛いよ。でも、好きなんだ。なんで、好きになっちまったんだかなぁ」 そんなの、僕が知りたいよ。 なんで、お前なんか好きなんだろう。 「じゃ、よろしく」 「おぉ、いつでも出家できるようにしてやらぁ」 「やめて、せめて甲子園に行かせて」 「んな歳じゃねーだろ」 大丈夫、まだ笑える。まだ、好きでいられる。 僕は震える手で彼の髪に触れた。 ----   [[ツインを取ったはずが手違いでダブルに>4-659]] ----

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