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最後のひとつ ---- 「あ、最後のひとつ」 「お前食べていーよ、俺結構食べてるし」 ホラ、と袋ごと差し出された最後のお菓子をじっとみつめた。 だんだん暖かくなってきた春の午後に、講義をサボって 大学の屋上で談笑しながらお菓子を食べている。 しかも好きなやつと。俺はなんて幸せなんだろう。 視線をお菓子からヒロに移すと、なんだよ、と言いたげに笑われた。 こんな笑顔ひとつに切なくなる。どうしようもなくヒロが好きだ。 「あー、えっと」 なんでもない、そう続けようとした口が別の言葉を言いそうになる。 「……ヒロ、俺、お前がす」 「なに二人だけでお菓子食べてんのずるいおれも呼べよバカ!」 言いかけた瞬間、目の前のお菓子の袋から最後のひとつを 奪っていった手があった。 驚いて顔を上げるとそこには、奪っていったお菓子を食べながら 不満そうにしている見知った顔があった。 「裕か、だってお前大学来てなかっただろ?」 「メールしたじゃん! ヒロ見てなかったわけ!? ひどい!」 裕はふざけながら大げさに悲しんでみせる。 そんな姿に笑いながら、大げさだろと言おうとした。 「昨日はあんなにらぶらぶメールしたでしょ~?」 「え」 「バッカお前、浩介がいるところでそんなこと」 言ってからヒロは墓穴を掘ったことに気がついたらしい。 いつもの調子で、バカなこと言ってんなよと笑い飛ばしてしまえばよかったのに。 「……付き合ってんの?」 「あー、まあ」 「昨日からね!」 裕はそう言って真っ赤になって俯くヒロの肩を抱いて、俺に向かってピースサイン。 「なあんだよ、早く言えよ、良かったな」 最後のひとつよりも先に、ヒロも奪われしまっていたようだった。 ----   [[少しだけカニバリズム>18-719]] ----

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