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長年の同居人が人外だと今知った
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パキッ
猫缶を空ける音で、俺は目を覚ました。
窓を見る。きらきらと浮き上がる埃の向こうにやや傾いた日が見えた。
俺はひとつ欠伸をするとベッドを降り、よたよたとリビングに向かった。
「おー、起きてきた。食事の気配にだけは敏感なんだね」
「うるせぇ」
「今日はちょっと高いやつだよ、ほら」
「ほらじゃねぇよ。横着してないで皿に出せ」
「えー」
「缶のまま食うなんて畜生のやることだろうが。一緒にすんな」
「……それは俺に対する挑戦?」
そう言う奴の背後には、空になった焼き鳥缶とフォークが転がっていた。
俺はため息をつきつつ、奴の使ったフォークを再利用した。
「なぁ」
「ん」
「原稿どんくらい?」
「あとちょっと」
「人間って大変だよな。かまえよ」
机に向かう奴の背に、べたりと寄りかかった。
奴は器用に、後ろ手で俺の頭を撫でる。違う、そういうのじゃない。
俺は這うようにして、あぐらをかいた脚の間に上半身を割り込ませた。
「もうちょっと」
「お前のちょっとは長い」
「何百年も生きてたら大概のことは『ちょっと』にならない?」
「ならない」
奴はふっと苦笑して、俺の体を引っ張り上げた。ぎゅう、と抱きしめられ溶けそうな気持ちになる。
「よしよし」
「ガキ扱いすんな。お前の何倍生きてると思ってんだ」
こう言うと決まって、奴が困ったような顔で口をつぐむことを俺は知っている。
年功序列はこの国の守るべき伝統だ。人間の若造風情が少しでも調子に乗りそうな時は、こうしてぴしゃりと押さえつけることにしている。
が、今日は少し勝手が違っていた。
「じゅうぶんのいち、ぐらいかなぁ?」
奴が珍しくとんちんかんな答えを寄越してきたのだった。
冗談にしても悪趣味だ、何千年も生きるような人間があるか。
「は?何をふざけ」
ているのだ、とは続かなかった。
奴の目がやや獰悪な光を帯びながらにぃっと笑う様子に、感じたことのない躊躇をおぼえたからだった。
「今日でちょうど15年だし、そろそろネタバラシといきますか」
奴はそう言うと、すうっと息を吸い込んだ。
みるみるうちに奴の頭が狐の顔にすげ変わる。
元のままの声で「こん♪」とおどけてみせる奴に、俺はすっかり言葉を失ってしまった。
「おかしいと思わなかったの?人間ってもっと年取るの早いんだよ」
嘘だろ。
嘘だろ……
「ごめんね、年下をからかうの大好きなんだ」
ショックに垂れて震える耳を、奴の肉球がやさしく撫でた。
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[[最後のひとつ>18-709]]
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