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刑事 ---- 車内はまるでコントのように沈黙でぱんぱんだった。 辺りは暗く、車内も暗い。柔らかい黒い闇が、眠気を誘っているような気もする。 僕は缶紅茶をすすった。ぬるい。 「……キタさん」 「おう」 運転席の西がやったらめったら澄んだ声で呼びかけてきた。 涼しげーな本人の容貌にぴったり過ぎるいい声だと密かに僕は思っている。 「………」 西の気配が急に緊張しだした。何だ?めずらしいな、と思い促す気持ちで顔を見る。 西は数メートル先のマンションの玄関を、じっと見つめていた。 絵になるなあーとうっかり思ってしまうが、まあいいだろう。絵に描いたように誠実な刑事の横顔をぼんやり見る。 「…気づかれてますかね?」 「ああ、まあな」 僕たちはつまり牽制に過ぎない。あいつらはどうせ黒だ。 「ホントですか」 西が少しショックを受けたような声を出した。 「最初から分かってたことだろ?」 僕は意識して慰める調子を作った。あいつらは黒で、上で糸を引いてる奴らはびみょーにやばい連中で、僕たちのしていることは無意味に近い。 だからって、 「別にいいだろ」 わざと軽く言う。西の頬がひくりとひきつった。 「気、気にしないってことですか?」 ホントに真剣なんだなあ、ちょっと感動しちまうよ。 「しねえよ、馬鹿」 「ホントに?」 「よくあることだろ」 「よくあるんですか…?」 途方に暮れたような、声。どうしたんだ、いつになく深刻な気配をさせて。 「よくあるんですか?」 「あるある。いちいち動揺、してらんねえよ、な?」 ぽん、と肩に手を置いてやる。 …その手をあったかい手で捕まれた。おい? 「少しは動揺して下さい」 西くん、なんすか、そのいやにまじめな目のひかりは。 僕はズッと音をたてて紅茶をすすった。理由は分からないが顔に血が集まってきて、今が夜でよかったなー全く、と思った。 ----   [[刑事>4-479-1]] ----

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