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落武者ふたり ---- 東へと落ち延びるうちに、とうとう二騎となった。 疲労も頂点を通り過ぎ、虚ろであった。愛馬の足取りも鈍い。 長らく黙していた馬上の主は、不意に切出した。 「義忠、もう好い。ここまでよく尽くしてくれた。儂の首を持って、敵陣へ参じるがよかろう。」 「利長様。」 咎めるような腹心の声色を無視して、尚も言い加える。 「よいではないか。最早主家も滅んだのだ。今更義理もあるまい。」 口ぶりに籠められた自棄のような明るさが、何とも痛々しい。 「冥府までお供致します。元々、利長様に拾われた命です。」 主の横を徒歩で付き従いながら、義忠は自らの人生を振り返った。 「利長様の口利きが無ければ、私は謀反者の子として、父共々七年の生を終えていた事でしょう。 それが、妻を娶り子を成して、人並みの暮らしを営む事ができました。志乃は、私には過ぎた妻でした。」 複雑な顔をして利長は押し黙った。沈黙の意味を推し量るうちに、利長は重い口を開いた。 「義忠…今だから申すのだが、儂はそなたの縁談、一度は反故にしようとしたのだ。内密にな。」 「……。」 「そなたと添い遂げるであろう女子が、嫉ましかったのだ。人の道に悖ると、猪瀬に叱られたぞ。 然るべき女子と契り子を設けるは、男としてこの上無い幸せ。義忠の命を譲り受けた以上、 義忠に幸せな生涯を全うさせるのは儂の責務じゃと申してな。」 戦場に散っていった老臣を思い浮かべ、利長は寂しげに笑った。 「…存じておりました。」 常と変わらぬ穏やかさで義忠は応じた。意表を突かれ、利長は鋭く振り向いた。 「猪瀬殿は、私にこうも仰ったのです。利長様はそなたに懸想なさるあまり、政務も手に付かぬ有様。 そなたの気持ちは重々存じておるが、利長様の御為を思えばこそ、志乃殿と祝言を挙げ、引導を渡して差上げるべきではないかと。」 「はは…引導とはの、あの狸爺め。確かに堪えたな。…情けない事に、涙が出た。」 義忠は驚きを押し隠そうとしてかなわずに、極り悪く俯いた。 そうして長いこと、泥と乾いた血に塗れた己の足下を見詰ていたが、やがて独り言のように言った。 「永らく、お慕い申し上げておりました。例え実を結ばずとも、その事に変わりはありませぬ。」 「……そうか。」 それ以上は言葉にならなかった。主従それぞれに思い乱れながら、黙々と山道を進み続けた。 不意に義忠は歩みを止めた。訝しげに、利長はそれに倣った。 がさ、と枯葉を踏み分ける音と共に、立ち木の間から人影が、三つ四つと姿を現し始めていた。 「残党狩りか。」 義忠は物も言わずに、主の乗る馬の向きを変えた。 「何をする!義忠!!」 「お許しを。これが最後の奉公に御座いますれば。」 狙いを付け、鞘で強く馬腹を叩いた。馬は嘶き、前脚で宙を掻くと、翼が生えたように走り出した。 「義忠!!」 名を呼ぶ主の声は長く尾を引いて、じきに聞こえなくなった。 「賽の河原にて、お待ち申し上げております。いずれ、ゆるりと御出なさいませ。」 五つに増えた人影と向き合い、義忠はここを墓場と決めた。最早、思い残す事も無かった。 ----   [[普段クールな攻が、泥酔して意外な行動をとるのに、ふりまわされるけど、嬉しい受>4-249]] ----

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