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俺の命にはタイムリミットがあった。 小さい頃に心臓疾患が見つかって、俺の両親は『成人式を迎えられたら神様に感謝してください』と言われていた。でも奇跡は起きて、とりあえず俺は成人式を迎えられる。 そしてもうひとつタイムリミットがある。これは自分で自分に決めた時間制限。 「はい、じゃあ胸見せて」 聴診器があたる瞬間はいつも体がこわばる。聴診器が冷たいせいもあるけれど、心臓の音がいつもより早くて緊張するからだ。 「今度、成人式だって? 良かったね。ドーム行くの?」 目の前の人のいつもよりしわくちゃの白衣が気になる。また病院で寝たのかな。 「行かないよ。友達と麻雀大会する」 「何、それ。もったいないな。一生に一度だよ?」 髪もボサボサ。でも暇な先生よりいいけどね。 「一生に一度だから、つまらない話を聞くのに時間を使う方がもったいないじゃん」 「この時を一番待ってたのはご両親だよ。親孝行しておきなよ」 「いいんだよ。俺、親不孝だもん」 診察室ではいつもたわいもない話だ。 「後で絶対後悔するよ」 「後悔って? いつ頃すんの?」 「君が子供を持つ頃くらいかな」 「じゃあしないよ」 服を着ながら俺は答えた。俺は親不孝だって言ったでしょ。 「今の医学の進歩はすごいんだぞ。大丈夫だよ」 「そうじゃなくて。医学が進歩しても、俺、女の子を好きになれないもん」 「え?」 絶句するよね。でも、そんな話題ふる方が悪い。 「……そうか。そうだよなあ…。でも……」 「いいよ。無理して答えようとしなくても」 このまま行けば俺は成人式まで生きていられるだろう。 神様がくれた奇跡だ。だから贅沢は言えない。もうひとつ奇跡を下さいなんて。 「俺、成人式を過ぎたら先生に言おうと思ってた事があるんだ」 「今でもいいじゃない。何?」 「今はダメだよ。何の準備もしてないから」 「準備って?」 「発作、起こすかもしれないから」 「脅すなよ」 「脅してないよ。親切心だよ」 この恋心をかかえたままだと、俺の寿命は確実に縮まる。それだと先生も悲しむだろう。悲しんでくれるよね? だから決めた。 もうすぐこの不毛な恋が終わる。
タイムリミット ---- 俺の命にはタイムリミットがあった。 小さい頃に心臓疾患が見つかって、俺の両親は『成人式を迎えられたら神様に感謝してください』と言われていた。でも奇跡は起きて、とりあえず俺は成人式を迎えられる。 そしてもうひとつタイムリミットがある。これは自分で自分に決めた時間制限。 「はい、じゃあ胸見せて」 聴診器があたる瞬間はいつも体がこわばる。聴診器が冷たいせいもあるけれど、心臓の音がいつもより早くて緊張するからだ。 「今度、成人式だって? 良かったね。ドーム行くの?」 目の前の人のいつもよりしわくちゃの白衣が気になる。また病院で寝たのかな。 「行かないよ。友達と麻雀大会する」 「何、それ。もったいないな。一生に一度だよ?」 髪もボサボサ。でも暇な先生よりいいけどね。 「一生に一度だから、つまらない話を聞くのに時間を使う方がもったいないじゃん」 「この時を一番待ってたのはご両親だよ。親孝行しておきなよ」 「いいんだよ。俺、親不孝だもん」 診察室ではいつもたわいもない話だ。 「後で絶対後悔するよ」 「後悔って? いつ頃すんの?」 「君が子供を持つ頃くらいかな」 「じゃあしないよ」 服を着ながら俺は答えた。俺は親不孝だって言ったでしょ。 「今の医学の進歩はすごいんだぞ。大丈夫だよ」 「そうじゃなくて。医学が進歩しても、俺、女の子を好きになれないもん」 「え?」 絶句するよね。でも、そんな話題ふる方が悪い。 「……そうか。そうだよなあ…。でも……」 「いいよ。無理して答えようとしなくても」 このまま行けば俺は成人式まで生きていられるだろう。 神様がくれた奇跡だ。だから贅沢は言えない。もうひとつ奇跡を下さいなんて。 「俺、成人式を過ぎたら先生に言おうと思ってた事があるんだ」 「今でもいいじゃない。何?」 「今はダメだよ。何の準備もしてないから」 「準備って?」 「発作、起こすかもしれないから」 「脅すなよ」 「脅してないよ。親切心だよ」 この恋心をかかえたままだと、俺の寿命は確実に縮まる。それだと先生も悲しむだろう。悲しんでくれるよね? だから決めた。 もうすぐこの不毛な恋が終わる。

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