「4-189-1」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

4-189-1」(2010/03/15 (月) 00:57:54) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

刀と鞘の関係 ---- 「……また、仕事か?」  何気ないそぶりでそう尋ねる鞘に、刀は弱弱しく微笑んで掠れた声で答える。 「すぐ、戻ってきますから」  自分の腕からいなくなっている間に刀が何をしているのか、鞘だって知らないわけではなかった。  全身雨に降られたように血塗れで戻ってくる刀。それでも、戻るとすぐ自分ににこりと笑いかける刀。 『仕事』の後のその姿を見るたびに、鞘は己の無力さに唇を噛み締めていた。  ――こんなことを、させたくはなかった。  彼の滑らかな肌に似合うのは薄絹で織った着物か何かで、あんな醜いやつらの血液ではない。  たとえどんなに非道な相手だとしても、あの細腕で誰かの命を奪うなど、してほしくはなかった。 「鞘さん、済みません」 「……何が」  振り返りざまにそう頭を下げた刀に、鞘は不審そうに一言呟く。  その問に心苦しそうな声で、刀は口を開いた。 「僕、今夜もまた鞘さんを汚してしまいますね」 「馬鹿野郎。んな心配すんな」  誰かを殺した後の刀は、何時も鞘の温もりを求めてくる。  血で濡れた身体を洗う間もなく、彼は鞘の腕の中へと飛び込むのだ。  冷たい死体の代わりに、誰かの暖かい肌を欲するように。 「お前は、俺が受け止めてやる。だから、余計なことは考えなくていい」 「……ありがとうございます」  扉を開けて出て行く彼の後姿を見ながら、鞘は今宵も刀を止められなかった己の不甲斐なさに嘆息した。  いつか、彼が自分のもとへ戻れなくなる日が来るのだろう。  その身を二つに折って、心も身体も壊してしまう日が、いつかきっと。  ……その日が来てしまったら自分は、正気でいられるだろうか。  彼を抱きしめているつもりで、その実、心の空白を埋めてもらっている俺に、  正気でいられる余地など、果たしてあるのだろうか。 ----   [[刀と鞘の関係>4-189-2]] ----

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: