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また忘れたの?信じらんない ---- メール・ボックスは忘れられない彼と交した、忘れられた約束の詰まった保管庫。 消去も出来ずに保存してあるだなんて、執念深い自分が嫌になる。 忙しいなら約束なんてしなきゃいいのに、僕の我儘に付き合って無理して交した約束は、いつも仕事に忘殺された。 「また忘れたの?信じらんない。」 あの日、いつもの決まり文句を投げ吐けて、僕は最後に付け足した。 「もう、ダメなのかな?僕たち。」 すると、彼は寂しそうに笑って 「…仕方ないね。」 と、呟いた。 それが最後。 もう約束を交すこともなく、暫くして彼は、あんなに忙しかった仕事すら放り出して、何処かへ消えた。 彼が姿を消してから2年後、彼の主治医に見せられた彼のトランク。 それは、忘れられた筈の僕との約束と、僕との出合いからあらゆる思い出の詰まった備忘録の山だった。 「会ってやって下さい。彼はもう、あなたのこと以外は何も覚えていません。」 主治医が言った。 忘れられた筈の約束。それは嘘だった。忘れたというのは嘘だった。 彼は、何もかも覚えていて、業と忘れた振りをしていただけだった。 僕を遠ざけるために。 (そうやって、カッコばっかつけて、独りで死んでいこうだなんて、いかにもアンタらしいやり方だったかもしれないけれど。 馬鹿だよ。信じらんないよ。) 忘れたくない思い出を全て書き残したノートには、僕すら忘れていた些細な思い出すら記されていて、僕は読みながらボロボロ泣いた。 もう、今は彼はそうした事も殆んど忘れてしまって。 僕以外は誰の顔も忘れてしまって、子供のようにねだる。 「ねえ、あれ読んで。」 その度に、僕は彼の記した長い長い備忘録を声に出して読む。 彼はそれを聞いて幸福そうに微笑み、忘れちゃったと泣き、僕の腕の中で眠りにつく。 だんだん進行して行く病状。 「また忘れたの?」 「ごめん。」 と、子供のような口調で呟く彼に 「いいよ。もう、とっくに慣れてるから。」僕はそう言って、彼の頭を胸に抱く。 「ごめん。」 僕に髪を撫でられながら彼は何度も呟く。 ----   [[背中合わせ>4-179]] ----

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