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敬語紳士×ガテン系オヤジ ---- 「まだ残っていたんですか」 「あ、先生」 「ノートを写しているんですね。それは誰の分ですか?」 「振生くんのです。最近、また学校に来なくなったから……」 「ノートを持っていってあげるんですね。しかし、彼は読んでくれるでしょうか」 「みんなそう言います。でも、僕、振生くんはきっと悪い子なんかじゃないと思うんです。こんなこと、僕が言うのもおかしいかもしれないですけど……」 「どうしてそう思うんですか?」 「今まで、彼の家には5回行きました。彼はいつも不機嫌な顔で、2回目なんか渡したノートをそのまま投げつけられました。3回目には、怖いお友達がいっぱいいて、指をさして笑われました。」 「それはそれは」 「僕もその時には、もしかしたら迷惑なのかもしれないって思いました。でも、やっぱり僕にはこれぐらいしかできないんです。だから、それからも、迷いながら、いつも結局ノートを持って行ってました。そうしたら、この間の5回目のことです。先生!」 「5回目に?」 「振生くん、やっぱり不機嫌な顔で、だけど、珍しくノートはちゃんと受け取ってくれました。それで…………『ありがとう』って言ってくれたんです。僕に!」 「それは……」 「僕、嬉しかったです。それから、思いました。振生くんが学校で暴れてしまうのは、学校に振生くんと気持ちの通じる人がいないからなんじゃないかなって。 振生くんが暴れるのは、もちろんすごく怖いことだけど、それよりずっと、……かなしいことだったんじゃないかなって」 「なるほど。」 「もしかしたら、この間も単なるまぐれだったのかもしれないです。でももし少しでも、彼に迷惑だと思う以外の気持ちがあるのなら、……僕、もうちょっと頑張ってみたいと思います。…………それに」 「それに?」 「笑われちゃうかもしれないけど、僕、あの話は本当だと思うんです。この学校に伝わる、伝説の不良と伝説の優等生の話」 「……そのお話、詳しく聞かせてもらってもいいですか?」 「先生、懐かしい話を聞きましたよ」 「お前も先生じゃねぇか。」 「そうでした。それで、昔この学校に、教師ですら手のつけられないような不良がいたこと、覚えていらっしゃいますか?」 「あぁ、いたな。」 「ふふ」 「気に入らないことがあったらすぐ暴れて、物は壊すわ人は殴るわで散々だったよな。でも……」 「はい」 「そいつには、どれだけ殴られても、蹴られても、まとわりついてくる奇特なクラスメートがいた。」 「物好きな方でしたね」 「いらないっつってんのに、そいつがあまりにも世話焼いてくるもんだから、不良の方もそのうち尖ってるのが馬鹿らしくなってきてな」 「そうでした」 「しまいには、大嫌いだった勉強まで始めて、大学まで目指して……」 「……教師になってしまった。」 「どんな因果か、な。この俺が教師なんて。」 「私は嬉しいですよ」 「もちろん途中から真面目に勉強したって、お前と同じ学校になんて入れっこなかった。でも、運動だけはできたからな。」 「あなたのクロールは本当に綺麗な形をしていると聞きました。金槌には羨ましい限りです」 「よせよ」 「ふふふ」 「…………なぁ、何だか懐かしい気持ちになっちまった。俺がひとつ数式を覚えるたびに、お前は飽きもせず誉めてくれたっけなぁ」 「そうでしたっけ」 「……もう一回、あの時の気持ちに戻ってみてぇなぁ。」 「……」 「なぁ、委員長さんよ……」 「……仕方のない人ですねぇ」 数学教師はふっと笑みを漏らすと、体育教師の頭に手を伸ばした。 それに合わせて、頑強な顔の体育教師は俄に表情をやわらげ、静かに目を閉じる。 「えらいえらい」 下校時刻を知らせるテープ放送が、ゆっくりと流れはじめた。 ----   [[敬語紳士×ガテン系オヤジ>18-439-1]] ----

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