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怖がり×幽霊
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「あそこはね、多いんだよ。古い建物だらけだろ?おまけに俺が住んでたのが、中心部からちょっと離れたテムズ川の岸辺近くで、倫敦塔が目の前に―」
「や、止めろよ!聞きたくないっ。良、その目も怖わいよ。」
克が恐ろしそうに良を遮った。この手の話にはからっきし弱いのだ。
それにしても、良は帰国以来、前にも増して色白くなった。もともと少し影のある印象的な美しい面立ちが、そのためにいっそう凄みを増した。その口から怪談が語られたら確かにぞっとはするだろう。
良は脅える克の肩を抱いて頭を撫でた。この真面目で臆病な友人が可愛いくて仕方ない。
脅かすのは良の悪い癖だ。サドっ気があるのかも知れないが、脅かせば素直に反応し、無防備になる克を見たくてつい悪癖が出る。
それに、脅えた克を腕の中で安心させ、寝つくまで背中をさすってやるのは堪らない。
自分にしがみつくようにして、ようやく眠りについた克の頬に、良はそっと口付けた。
(一晩中、寝顔を見ていたいが、肉体を維持し続けるのは、さすがに疲れるな‥)
良は克の手からするりと抜け出て、戸外の漆黒の闇の中へその身を委ねていった。
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闇にすっかり溶け込んで漂っていた良を何かが呼び覚ました。
「ひいぃぃっ‥‥や、止めっ‥!」
克だ。
良が慌てて部屋に戻ると、白眼を向いた克の躰を男の霊が押さえ込んでいた。
(この変態がー!俺がまだやってもいない事を!!)
怒りで我を忘れ、
良は霊の頭上、中空へ飛び上がった。
「去れ!その男は元より俺のものだぞ!」
「ふんっ、手付きのものならば仕方あるまい。が、ならばそうと徴を付けておけ!
だがな、新参者。次からは言葉に気を付けることだな!」
霊はそう言いながら飛び上がり、良の顎を両手ではさみ込んだ。
睨み付けたままぐいぐいと近付いてくる。
ぴったりと額を寄せ、
「むしろ、生前のお前に憑きたかったな!」
と、凄み笑いを浮かべ、そのまま良の躰を通り抜け、
―姿を消した。
良は身震いして、ふうと溜め息を付くと、白眼を向いたままの克の頬を張り、抱き寄せた。
「良!何処へ、‥なんで居なかったんだよ!キスされたんだよ!幽霊にキスされただなんてーもう、もう‥‥!」
克にギュッと抱き付かれた良は、
「克、大丈夫、大丈夫だよ。俺が振り払ってやるから。キスされたところ全部。」
と、幸福そうに囁き、唇から、首筋へと次々に口付けて、愛撫していった。
克の顔が、恐怖から驚きへ、そして次第に陶酔の表情へと変わっていく。
「俺の徴を刻み付けなくちゃならない。いいね?」
耳元で囁く。
克は、答える代わりに唇を寄せた。
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「なあ、克。もしも俺が死んで、化けて出たら?」
「止めろよ、そんな話。」
「いや、真面目な話さ、それでも怖い?」
「‥そんな‥。でも、一緒にいられるんだったら‥怖くても嬉しいんだと思うよ。」
(信じていいんだろうか。)
良は、克を抱き寄せながら考えた。
あの湖からはまず死体は上がらないだろう。―しかし、いずれは行方不明の通知が届く。
そしたら、克に本当の事を話さなくてはならない。帰国したのは幽霊だったんだと。
それでも克は受け入れてくれるだろうか?
信じていいんだろうか。
「――。でさ、ピカデリー・サーカスって名前、知ってるだろ?あそこは、何本もの路が複雑に分かれてて、どの路へ行ったらいいのかよく戸惑っている人がいるんだよ。でも、戸惑っているのは、人間ばかりじゃないのさ。―――。」
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[[いつも朝バス停で会うあのサラリーマン>3-909]]
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