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「3-839」(2010/03/09 (火) 13:31:52) の最新版変更点
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着うた×着メロ
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俺は着メロ。この業界じゃ俺を知らぬものはいない。
老若男女問わず俺は落とされ、求められ、鳴かされてきた。
言わば百戦錬磨といったところか。
そう、俺はずっと、俺のまま、俺が一番のはずだった。
それが正しい世界のカタチだったのだ。
しかし、最近何だか指名が減ってきている気がする。
今日もだ。人間達は迷った挙句に俺を避ける。
うそだろ、なぜだ?なぜ俺を選ばない!!
「あ!着メロ先輩、すいませんお先です!」
すぐそばから無邪気な声が聞こえた。
「・・・着うたか。最近忙しいんだな」
横目でにらんだ先には、
のほほんと喉の調子を整えている新参者がいた。
「いえ、ぼくなんか、まだまだ先輩には及びませんから!
がんばらなくっちゃ!」
「ぼく、先輩みたいになるのが夢なんですもん」
にっこりと、奴は笑いかける。
はしゃいだ無垢な顔。
「ふん、お忙しいようで、いいこったね」
でも俺はついつい悪態をついてしまう。
そうだ、すべての元凶はこいつなのだ。
「先輩??」
きょとんと覗くその目が、子供っぽく光っている。
俺はついつい目をそらしてしまう。
しかしそうやってそらした後に、妙にそわそわしてしまう。
俺はコイツが邪魔でしょうがないのだ。
そうこうしている内に俺にもお呼びがかかる。
俺はやっとこいつのことを考えないですむようになる。
「なんだよ、ほらお前も呼ばれてるぞ。行けよ。早く。」
「あ、はい、でも先輩最近何だか・・・」
「なんだよ、うぜぇな」
奴は一瞬ビクッと体を触れさせると、泣きそうな目をして俺から離れた。
必要以上にこいつを冷たく突き放してしまう。
だって俺はこいつが邪魔なんだ。
なのにこいつは俺にひどくなついてやがる。
子犬みたいにまとわりついてくる。
沈黙がつづく。
なんなんだよこの罪悪感は。
俺は理不尽ないたたまれなさに耐えられなくなる。
「早く行けよ。」
「・・・はい。行ってきます。」
律儀にも一礼すると、奴はとぼとぼと歩き出す。
・・・なんなんだよもう。しょうがねぇな。ほんとしょうがねぇよ。
俺の態度ひとつで、泣きそうになることないじゃないか。
なんだか変におかしくなる。
しらないうちに体が動いて、俺は思わず奴の背中に手を伸ばした。
「おい。」
「え?」
驚いて振り向いたその頭をなでて、髪を指ですいてやる。
目じりに滲んだ涙をぬぐって、指先で喉に触れてやる。
「・・・ま、あれだ・・・そのお前もがんばれよ。」
奴は安心したように頬を緩める。いつもこうなのだ。
俺はこいつを拒めない。最後にいつもこうしてしまう。
自分で泣かせておきながら、どうにも耐えられなくなるのだ。
「じゃ、ぼく行ってきますからー!」
すぐに笑顔に戻り、元気に駆け出していく奴を見送りながら、
俺は、出会ってから何度目かのため息を、深くはきだすのだった。
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[[妖怪>3-849]]
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