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懐中時計 ----  まるで時に囚われているみたいだ。  俺が、初めて『その人』に出会ったときの感想が、それだった。  背はそれなりにあるくせに、華奢な体格。外界と自分を隔離 するかのような眼鏡。きっちり締められたネクタイが、窮屈そうに 見えない所が、逆にこちらを心苦しくさせる。  彼は何をする時でも、勿論仕事をしている時でも、その意識を 自分のポケットの中に注いでいる。  そのポケットの中には、小さくて古風な、懐中時計が入っている。  外装はそれほど傷ついていないのに、動かない時計。  ずっと2時43分で止まったままの時計。  それが『かつての恋人』の形見だと聞いたのは何時だったか。  その『恋人』が、女性ではないと知ったのは……  くすんだ銀色の懐中時計、その蓋には蔦の浮き彫りが施されている。  俺はその蔦が嫌いだ。  まるで彼を縛る過去そのものみたいだから。  朝の光の中、シーツの中に彼の姿を見つける。  彼は、また、その懐中時計を握り締めながら寝ていた。  しゃらり、かすかに細い鎖が鳴いた。  まるで彼が、懐中時計自身のようだ。  俺が彼の秒針を再び動かせる日は、果たして来るんだろうか。  彼が呟く寝言は、また、俺の名前ではなかった。  零れ落ちた涙は、懐中時計のそれより、ずっと綺麗な銀だった。 ----   [[同期の出世頭(生真面目・純朴)と、最近急に評判が上がった男(顔は良いが見た目チャラ男)>3-559]] ----

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