「17-969-1」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

17-969-1」(2010/03/06 (土) 03:15:27) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

極悪人と偽善者 ---- 「……ですから、彼のことは見逃して頂きたいのです」 ひとしきり語った後、真摯な口調で神父服の男は言った。 「貴方に僅かでも慈悲の心があるのなら、どうか」 「俺にそんなモンが欠片でも残っていると本気で思ってんのか?」 嘲笑ってやると、相手は困ったような表情を浮かべた。 「あの野郎の人柄だの哀れな境遇だの、俺には関係ない。奴は俺のシマを荒らした、それだけだ」 「彼本人が意図したことではありません。ただ単に利用されて…」 「うるせえよ」 言い募ろうとするのを切り捨てる。さっきまでの長々とした演説を再び繰り返されてはたまらない。 すると、男は小さくため息をついた。 「……議会の方々は、今だって貴方を十二分に恐れていますよ」 「あ?」 「無意味、ということです」 それは先程『彼の哀れな身の上話』を語ってみせたのとまったく変わらない口調だった。 「議会は既に、彼の存在を記録から抹消しています。元から捨て駒だったのでしょう。だから彼が死んでも痛くも痒くもない。  それどころか、自分達の手を汚さずに彼が始末できるとあらば、貴方に感謝するかもしれませんね」 「何が言いたい」 「貴方にとって、彼の命にそこまでの価値はないということです」 どうか彼を殺さないで欲しいと懇願したその口で、さらりとそんなセリフを吐く。 その終始変わらない調子に、毎度のことながら軽く寒気を覚える。 「……。俺が気に入らねぇのはな」 「はい?」 「お前がいつもそうやって、誰かの為、何かの為と大義名分振りかざして来やがるところだ」 軽く睨んでやるが、男は表情を崩さない。真っ直ぐにこちらを見つめてくる。 「なにが『彼は真面目でお人好しな人間』だ。なにが『病身の妹がいる』だ。  哀れな子羊にご慈悲を? 寝惚けたこと言ってんじゃねえぞ、エセ神父」 今回の一件は飽くまで、マフィアと議会の諍いだ。 捕らえた男とこの男の間に直接関係があるとも考えにくい。 それなのに自分のところへ態々『慈悲を乞いに』やってくるということは。 「お前があの野郎を助けようとするのは、単に教会連中にとって利用価値があるってだけなんだろうが。  それがなけりゃ、あの野郎が始末されようがどうしようが、お前は気にも留めない。違うか?」 一応それなりに凄んでみたのだが、やはり相手はまったく動じなかった。 それどころか、あっさりと肯定の意を示す。 「確かに仰る通り、こちらにはこちらの思惑がありますが」 でもいいじゃありませんかと、男は言い切る。 「それで助かる命があるのなら、善いことです。必要であれば、私は何度でも貴方に頭を下げましょう」 「……反吐が出る。教会の犬が」 「貴方ほどの人にそう言われると、逆に光栄です」 この男が厄介なのは、己に利があると認めた上でなお自分の行いを『善行』だと言い張ることだ。 否、言い張っているのではなく、心からそう信じているのだろう。 自覚的な偽善者は、そこいらの悪人よりタチが悪い。 「どうか彼と彼の妹さんの為に、ご慈悲を」 そう言って神父服を着た男は、今日ここを訪れてから初めて微笑んだ。 ----   [[「勝ち続けた男」と「最後に勝った男」でひとつ>17-979]] ----

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: