「17-959」の編集履歴（バックアップ）一覧はこちら

「17-959」(2010/03/06 (土) 03:17:44) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

<p>休日街で偶然上司に会った</p>
<hr /><p>師走の人ごみの中を歩いていた。休日の、お馴染みのコース。<br />
なんとなく、いつもの店で冬物を眺める。<br />
なんとなく、本屋でサブカル本をパラパラ見る。<br />
なんとなく、雑貨屋の店内を一周したところで喉が渇いた。<br />
（…今日は何の収穫もない予感…）<br />
コーヒーショップで軽く食事をして、来た道を戻る。まあ、よくある事だ。<br /><br />
街を歩く人は皆、キラキラした表情でどこかへ向かっている。<br />
店頭のディスプレイも必要以上に瞬いている。<br />
俺は無表情で駅へと向かう。これでも空腹が満たされて気分は良いのだけれど。<br />
（さっきの本屋でなんか雑誌買おう…後は電気屋でプリンタのインクと…）<br />
「・・・・・・・。」<br />
ふと立ち止まって振り返る。知った顔はどこにも見当たらない。<br />
これもいつもの事。なのに誰かをつい探してしまうのは、この寒さのせいなのか。<br />
（やっぱクリスマスのムードって、すげーな…）<br />
なんとなく、心がざわついた。「いつもの」俺でいられなくなりそうで怖い。<br />
足早に雑誌を購入し、大型電気店の前を素通りして駅横の駐車場へ向かった。<br />
車に乗り込む、と同時にポケットの携帯が震えた。慌てて携帯を取り出すと、一気に力が抜けた。<br /><br />
『電気屋行くならお風呂場の電球買ってきてネ！』<br />
・・・母親からのメールだった。<br />
「はぁぁぁぁぁぁ～期待した自分乙…」<br />
力なく車を降り、電気店へと向かった。<br />
（これが、俺の日常。いつも通り。何も起きないのがとーぜん。分かってるだろ）<br /><br /><br /><br />
「！！」<br /><br />
電球を購入して店を出ようとしたその時、その人の背中が見えた。<br />
「や、（じま、かちょー？）」<br />
言いかけて止めた。そんなラッキーな偶然あるわけない。でも。<br />
少し白髪の混じったあの頭。ひょこひょこ歩く後ろ姿。ちらと見えた横顔が。<br /><br />
「やじまかちょうっ！　こんっ、にちはっ！」<br />
驚きと焦りでおかしな発音になる。くるんっと振り返ったその人はまさしく谷島課長だった。<br /><br />
「んおおうっ！おーー、白井くーん。どしたの」<br />
「どしたのって買い物ですよw　課長こそ何買いにきたんですか」<br />
「んーー、いろいろっ☆」<br />
「よく来るんですか、ココ」<br />
「あんまりぃ～。だって遠いじゃないの。今日はついでがあったから」<br /><br />
（なんだよソレなんでいるんだよなんで会えちゃうんだよ）<br /><br />
「これから何か用事あるんですか？」<br />
「ん～ん、帰るだけ」<br />
「じゃ、ご飯でも食べにいきませんかっ？　私今日車なんで送りますよ！」<br />
「ご飯ねぇ…行こうか？　でもいいの？送ってもらうなんて。<br />
てゆーか白井君ち地下鉄の駅近いのに車？　駐車代もったいないよ～」<br />
「運転好きですからね。ついつい…」<br /><br />
街で見る課長はいつもと同じで穏やかな顔をしていた。いや、もっとユルイかも。<br />
「ハイ、お車代★　よろしくお願いしますね」<br />
そう言って缶コーヒーを差し出す課長の顔。ふにっと上がる口角に、俺はつられて笑う。<br />
笑いながら、心は忙しく駆け回っている。このチャンスにしがみついてシッポを振っている。<br />
逃げないように、消えないように・・・。さっきまでの期待を殺した自分はどこかへ消えた。<br />
どうすれば今日、長く一緒にいられるのか。俺は固まった頭を目一杯使って考えていた。</p>
<hr /><p>極悪人と偽善者</p>
<hr /><p> </p>

<p>休日街で偶然上司に会った</p>
<hr /><p>師走の人ごみの中を歩いていた。休日の、お馴染みのコース。<br />
なんとなく、いつもの店で冬物を眺める。<br />
なんとなく、本屋でサブカル本をパラパラ見る。<br />
なんとなく、雑貨屋の店内を一周したところで喉が渇いた。<br />
（…今日は何の収穫もない予感…）<br />
コーヒーショップで軽く食事をして、来た道を戻る。まあ、よくある事だ。<br /><br />
街を歩く人は皆、キラキラした表情でどこかへ向かっている。<br />
店頭のディスプレイも必要以上に瞬いている。<br />
俺は無表情で駅へと向かう。これでも空腹が満たされて気分は良いのだけれど。<br />
（さっきの本屋でなんか雑誌買おう…後は電気屋でプリンタのインクと…）<br />
「・・・・・・・。」<br />
ふと立ち止まって振り返る。知った顔はどこにも見当たらない。<br />
これもいつもの事。なのに誰かをつい探してしまうのは、この寒さのせいなのか。<br />
（やっぱクリスマスのムードって、すげーな…）<br />
なんとなく、心がざわついた。「いつもの」俺でいられなくなりそうで怖い。<br />
足早に雑誌を購入し、大型電気店の前を素通りして駅横の駐車場へ向かった。<br />
車に乗り込む、と同時にポケットの携帯が震えた。慌てて携帯を取り出すと、一気に力が抜けた。<br /><br />
『電気屋行くならお風呂場の電球買ってきてネ！』<br />
・・・母親からのメールだった。<br />
「はぁぁぁぁぁぁ～期待した自分乙…」<br />
力なく車を降り、電気店へと向かった。<br />
（これが、俺の日常。いつも通り。何も起きないのがとーぜん。分かってるだろ）<br /><br /><br /><br />
「！！」<br /><br />
電球を購入して店を出ようとしたその時、その人の背中が見えた。<br />
「や、（じま、かちょー？）」<br />
言いかけて止めた。そんなラッキーな偶然あるわけない。でも。<br />
少し白髪の混じったあの頭。ひょこひょこ歩く後ろ姿。ちらと見えた横顔が。<br /><br />
「やじまかちょうっ！　こんっ、にちはっ！」<br />
驚きと焦りでおかしな発音になる。くるんっと振り返ったその人はまさしく谷島課長だった。<br /><br />
「んおおうっ！おーー、白井くーん。どしたの」<br />
「どしたのって買い物ですよw　課長こそ何買いにきたんですか」<br />
「んーー、いろいろっ☆」<br />
「よく来るんですか、ココ」<br />
「あんまりぃ～。だって遠いじゃないの。今日はついでがあったから」<br /><br />
（なんだよソレなんでいるんだよなんで会えちゃうんだよ）<br /><br />
「これから何か用事あるんですか？」<br />
「ん～ん、帰るだけ」<br />
「じゃ、ご飯でも食べにいきませんかっ？　私今日車なんで送りますよ！」<br />
「ご飯ねぇ…行こうか？　でもいいの？送ってもらうなんて。<br />
てゆーか白井君ち地下鉄の駅近いのに車？　駐車代もったいないよ～」<br />
「運転好きですからね。ついつい…」<br /><br />
街で見る課長はいつもと同じで穏やかな顔をしていた。いや、もっとユルイかも。<br />
「ハイ、お車代★　よろしくお願いしますね」<br />
そう言って缶コーヒーを差し出す課長の顔。ふにっと上がる口角に、俺はつられて笑う。<br />
笑いながら、心は忙しく駆け回っている。このチャンスにしがみついてシッポを振っている。<br />
逃げないように、消えないように・・・。さっきまでの期待を殺した自分はどこかへ消えた。<br />
どうすれば今日、長く一緒にいられるのか。俺は固まった頭を目一杯使って考えていた。</p>
<hr /><p><a href="http://www19.atwiki.jp/910moe/?page=17-969">極悪人と偽善者</a></p>
<hr /><p> </p>