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ピエロとブランコ乗り
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ピエロの頬には涙。
ドーランで描いたこの模様だけが、僕が流せる涙なのです。
素敵なブランコ乗り、長いしなやかな体と明るい目を持つ、
次から次へとブランコを飛び渡る彼の芸のように遊び上手なあの男と、
実のない関係を結んでからずっと、僕はちぎれてしまいそう。
笑っていただけるならそれもよし。
綺麗なダンサー達や、艶めかしいライオン使いの娘を横目に、
彼の後ろをおろおろ、ヨロヨロするもんだから、
テーブルから落とした酒瓶とグラスを3つずつ放り投げ、
蹴つまずいてボールに乗っかって、
哀れなピエロは恋しい相手と逆方向へ転がり落ちていくのです。
不実な、とは申しません。これでも僕はピエロです。
捨てられて女のように泣くばかりじゃ、仕込まれた芸が泣くってもんです。
男が男に遊ばれて、尻を抱えて這々の体。
美しい一夜の思い出でございます。
ああ、でも叶うことなら。
あの高い空から落ちては来ぬか。
観客の動揺。駆け寄るダンサー達。すがりつくライオン使い。
一時も早く観客の目から遠ざけるために、
致命的な傷を顧みられることなく抱えられていくブランコ乗り、
そこからさらに目を逸らさせるために、普段の倍も酒瓶もグラスも放り投げて
おどけてみせるピエロ、
しかし誰も注目させられもせず、その頬に崩れて流れる涙模様のドーラン。
転んでひっくり返って大げさに痛がって。
照明が落ちて、それでも芸を。これしかない一世一代の芸を。
などと、彼が手に入らないのならいっそ、と、
ブランコ乗りを見上げながら、この頃の僕は妄想するのです。
しかし、熟練したブランコ乗りが落ちてくることは決してありません。
滑稽なピエロ。
笑っていただけるならそれもよし。
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