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腹痛 ---- しまった、腹がいたい…… きっと朝飲んだフルーツ牛乳がいけなかったんだな。 それとも昨日の夜飲みすぎた酒の残滓が今頃、腹の中で暴れだしたんだろうか…。 そんなことを考える間にも、額に冷や汗が玉になって浮かび上がる。 汗はつぅ、と眉頭を越え、メガネの弦を伝ってポタリと滴り落ちた。 落下する雫を目で追うと、それは臙脂のネクタイに着地し、生地を黒ずんだ色に染めた。 伏し目になってそれを睨みつけた俺は、傍目には硬直しているように見えるだろう。 だが、内なる俺は悶絶している。それはもう、もんどりうって転がりまくっている。 電車は中途半端に混んでいる。 座れないけど、不審な動きをすれば注目されてしまう程度には空いている。 いっそ満員だった方が気が紛れただろうに……。 「――大丈夫?」 「……」 「具合悪りぃの?」 不意に横からかけられた柔らかな声に、かろうじて目だけを動かして応える。 横にいたのは思いがけない人物で、俺は束の間、腹の痛みを忘れ、目を驚きに見開いた。 俺は隣の人物に手を引かれるまま、次の駅で降車した。 木製のベンチに腰を下ろして、フゥッと大きな息をつくと、目の前にハンドタオルが差し出された。 ファンシーなピンク色のタオルで、耳にリボンをつけたネコが刺繍されている。 意図が分からないままぼんやりとタオルに見入っていると、 「汗、拭いたら?」とまた柔らかな声がした。 言われてみれば、俺は気持ちわるいぐらいに汗をかいていた。 汗のせいでメタルフレームのメガネは鼻梁からずり落ちそうになっているし、 スーツの中では、カッターシャツが背中に張り付いている。 「腹、痛ぇの?」 力なく頷くと、目の前に跪く金髪頭は、形の崩れたボストンバッグの中をごそごそと漁り始めた。 「ほら、コレ。このクスリ、水なしで飲めるからさ」 言いながら、俺の手を取り、掌の上に錠剤を2つそっと振り出す。 彼の手がやけに暖かいのは、俺の血の気が失せているせいだろう。 白っぽくなるぐらい染められた金髪は毛先が痛みまくっている。 耳には数え切れないぐらいのピアス。 眩しいほど白いシャツ越しにタトゥーが透けて見える。 電車の中で腹痛に襲われたその日、俺は白シャツの天使に恋をした。 昔からギャップってやつには、ひどく弱いんだ。 ----   [[恋人を庇って銃で撃たれる>17-529]] ----

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