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恋愛経験豊富な先輩×何もかも初めての後輩
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生まれて初めてごめんなさいと返事された。
放心状態の馬場を相田は楽しそうに、にこにこと眺めている。
「どうする? おれと元サヤしとく?」
「なんで、どうして、神様は俺のこと見放したの。ない。俺がふられるとか、ない。ありえない」
顔と同じに甘い声で相田が囁くのも聞こえずに、馬場は独りで何か口走っている。
こんなとんちんかんなことになっていても、普通この二人にはちょっと近寄りがたい。
ただでさえ容姿が整っているのが、しかも二人、机の上で顔を近付けている。あまり一般的に目にする光景ではない。
けれどその中に、物怖じもせず一人の少年が入ってきた。
「馬場先輩。付き合いましょう」
ぱっと振り返った相田をよそに、馬場はまだ机に突っ伏している。
これが例の佐野くんね、と相田は悟る。瞬間的につむじからつま先まで見渡して、ふうん、と声に出さずに呟いた。
一年生だ。幼さを引きずってはいるけれど、ちょうど今咲き始めている桔梗みたいに背筋が伸びた感じがする。
「付き合いましょう、馬場先輩」
「違うもん、俺さっきふられたもん。生まれて初めてふられたもん」
弱々しく呟く馬場に、佐野は授業中あてられた優等生のようにきびきびと回答する。
「ふってません。僕が少し待ってくれませんかと言って顔を上げたら、もう先輩がいなかっただけです」
佐野の袖を、相田が引っ張った。小声でたずねる。
「ちょっと君、なんで馬場と付き合う気になったのか聞いてもいい」
「馬場先輩は女性に人気があるので僕の学年にも有名なくらいですし、いい勉強になると思いました」
「勉強?」
「僕まだ誰とも付き合ったことがないので、馬場先輩、よろしくご指導お願いします」
これは、と相田は思ったが馬場はもうすっかり立ち直っていた。いきなり佐野の手を握った。
加えて太陽のような、文化祭の客引きなどで女の子を大量虐殺している笑顔で佐野に微笑みかけた。
「なんだ、俺ふられたのかと思って、びっくりした。すごい嬉しい」
けれど佐野は動じない。
「よろしくお願いします」
手を握られたと思っていない。自分も握り返したと思うと、そのまま軽く上下させた。握手した。
馬場はちょっと面食らったが、さすがに怯まず携帯を取り出した。
「じゃあ、とりあえず携帯いいかな。教えてもらっても」
「なんで先輩に教えないといけないんでしょうか」
馬場が携帯を開いたまま硬直した。
慇懃無礼という言葉が相田の脳裏をよぎったが、佐野はメモでも取りそうな勢いで真剣に聞いている。
馬場は百戦錬磨な分、こういう段取りでつまずくことに弱いのだろう。さっきの傷が開いてしまったのか、携帯をポケットにしまうとまたばたんと机に突っ伏した。
佐野はいきなりコミュニケーションを放棄されたことに困惑しきって、馬場と相田を交互にうかがっている。
相田は馬場を思いきりからかってやりたいような、佐野に突っ込みたいような、とりあえず笑いたいような気持ちでいっぱいで、二人を気遣うどころではない。
これはもしかすると、もしかしなくても、佐野が『付き合う』を『恋人として』で理解しているのかどうかさえ怪しいのではないか。
「馬場はさ、恋愛経験が豊富なだけ、だから。困ったらおれに相談に来なよ」
それだけは佐野に伝えると、これは結構楽しくなってきた、と相田はほくそ笑んだ。
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[[誘いマゾむしろ襲いマゾ>17-359]]
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