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なんて男らしい
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話があると部屋に呼んで、小柄な体をすっぽりと胸に包んだ。
……堪らない感情からと、顔を見ずに済むという理由のためだった。
「祐一のことは大好きだ……でも、別れよう」
髪にそっと口づけながら、とうとう言った。この3ヵ月、考え続けた結論だった。
同僚から恋人へ、想いがゴールを迎えてハッピーエンドのつもりだったが、人生はそう単純じゃなかった。
人は、恋だけに生きられない。
三十という年齢を過ぎて、社内での責任が重くなり、他の同僚が家庭を築き、
家族や親戚から圧力が高まり……
ありがちな、しかし誰でも直面する壁が俺達に立ちふさがった。
祐一はひとり息子だ。これ以上、俺に縛りつけておく訳にはいかない。
「このまま関係を続けても、俺達は幸せになれない。
このあたりが潮時だよ……素晴らし思い出をありがとう、祐一」
なんとか、重くならずに言えたと思う。しかし語尾は震えた。
誰よりつらいのは、俺だと思った。しかし、祐一の幸せのためには耐えるしかない。
力を込めて、祐一を抱きしめた。わずかに抵抗された。
納得できないか?祐一。でも、それがお前のためなんだ。
俺だって決心できてるわけじゃない。でも、俺は男だから。
祐一の細い肩が震える。俺の視界も柔らかく曇った。
こんな顔は見せられない。ますます強く抱きしめた。
「……っざけるんじゃねぇ」
低い、地獄からの声とともに、頭が揺れて気がついたら尻餅をついていた。
あごに一発をくらったと気づいたのは、そこから脳天に突き抜ける痛みと、口中の血の味のため。
「別れたいんなら別れてやる。どうせ俺のためとか思ってるんでしょ?」
冷たく見下ろす祐一の顔。一滴の涙もない。
「馬鹿じゃないの。逃げてるのは宏伸、お前のほうだから」
立とうにも立てない。あごを打たれて脳震盪を起こしているのだ。
祐一がきびすを返した。部屋から出て行こうとする。
「祐一……ちょっと、待っ」
「俺は跡継ぎとか、社内の立場とか出世とか、世間体とか、どうでもいいの。
宏伸さえ覚悟してくれたら、今の仕事を辞めてどこか遠いところで頑張ってもいい。
家族にだってカミングアウトしたって、それで縁を切られたって平気だ。
それをお前は……」
「いや、だって、お前のためを考えて俺は」
言った途端すごい勢いで振り返られて、顔面に腕が伸びてきた。
──もう一発、殴られる。ぎゅっと目をつぶって身構えた……頬に、手のひらの感触。
「宏伸が俺のことだけ考えてくれたってのはわかるけどさ、君は本当に……
馬鹿だとは思ってたけど、本当に馬鹿だ。自己完結しちゃって、情けないなぁ、それでも男か?」
ヒリヒリと腫れた唇に、冷たい唇の感触。
「ついてこい、って言われても困るだろうけど。
……俺だけじゃ駄目なの?他は全部あきらめて、俺をとれよ、宏伸。
男二人、何したって食っていけるとは思わないか?」
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[[半袖と長袖>17-309]]
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