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絶対絶命 ---- 目の前には見知った男、背中合わせには壁。 ついでに左右は目の前の男の両腕に阻まれ、逃げ道すらない。 目の前の男は心底楽しそうに目をにんまりと細め、んふふ、と笑った。 その微妙に低い声が耳の底を柔く擽って、思わずぶるりと身震いをする。 「さぁ、もう逃げ道はないね」 甘い毒を含んだ、魅惑的な声。 騙されてはいけない、逃げなくてはいけないと思うけれど、耳を這い首を伝って背骨の付け根を痺れさせるその声に、 自分を曝け出し屈伏してしまいたいという気分にすらなってくる。 「君は、これから僕のものになるんだ」 違う、お前のものになんてなってたまるか。 家には腹を空かせた兄弟が、俺の帰りを待っている。 「君が僕のものになれば、君の兄弟は一生の安泰が約束される」 それはわかっている、でも、それだけじゃなくて、俺には。 想い人が――想い人が。 「そんなものが、君たち兄弟の腹を満たしてくれるとでもいうのかい?」 だから、忘れてしまえ。 目の前の男は愉快そうにそう囁いて、俺の首筋に口付けた。 軽い音を立てて首筋に吸いついたその唇が、俺のそれへと近付く。 後は壁で、目の前には男がいて、左右は両腕に阻まれている。 絶望に足を取られて、反論する言葉さえ奪われて、見動きをすることも出来ない。 助けて。 心が悲鳴を上げる。 目の前の現実のその全てを見たくなくて目を閉じれば、 そこに浮かんだのは愛しいあの男の残像だった。 ----   [[絶対絶命>17-239-3]] ----

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