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馬鹿が風邪ひいた ---- 吉田はバカだ。 もう中学生なのに、真冬でも半ズボンでTシャツしか着ない。 学校でも、体育の授業もないのに勝手に体操服でうろついている。先生も最近はほったらかしてる。 しかも体育があると、終わった後手洗い場で頭まで洗って、あちこちびしょぬれのまま教室に入ってくる。 去年幽霊の足跡だと思って廊下の水の跡を辿ったら、上履きの中ギュポギュポ言わせて歩いてる吉田でムカついた。 給食の時間は人一倍食べるし、余った牛乳は必ず吉田が持っていく。ゼリーの争奪戦にも出る。 吉田は雨の日でも傘を差さない。穴の開いたボロボロの運動靴で自分から水溜りに突っ込んでいく。 吉田はバカだからあんまり友達がいない。 俺以外の奴らとは喋るというよりバカにされてるか怒られてるかばっかりで、 それを吉田がいつもみたいにニコニコ笑って聞いてる所しか見たことない。(多分何言われてるか判ってないし。) そんなだから、吉田が風邪を引いた時に家なんか知ってる奴がいなくて、なんか俺がプリントを持っていく事になった。 実際に見るのは初めてだけど、吉田の家はあんまり綺麗じゃない。 詳しくは知らないけど大野とか村田が言うには貧乏だかららしい。 玄関から出てきた吉田の話では、今母ちゃんが丁度パートに出てるらしくて、その間一緒に遊ぼうと言われた。 風邪で寝込んでるのに、やっぱりバカだ。 お前今遊べないし、風邪が移るから嫌だと言ったけど、それでも「お願いやから帰らんといて」とか言って、 棚からたくさんお菓子やジュースを出してきてしつこく引き止めるんで、仕方がないから居てやる事にした。 ジュースを飲みながら対戦してたら、だんだん吉田がしんどそうにしだしたんで、無理矢理布団に戻した。 給食のゼリーがあったのを思い出して渡してやったら、またアホみたく鼻水顔で喜んでて、 それからずっと俺が一人でゲームやってる後ろから「藤田くん凄いなぁ!」とかニコニコしながら言ってた。 吉田のデータを勝手に3面くらい先に進めた頃、いつの間にかもう塾に行く時間になっていて、 俺が急いで帰り支度を始めると、吉田が慌てたようにまたお菓子や漫画を出して引きとめようとしてきた。 俺塾あるから帰らなきゃ、って何度言っても判らないみたいで、べそかきながら このお菓子あげるから、この漫画あげるから、って言うんで凄く困ったけど、塾をさぼると母ちゃんが恐い。 結局吉田は玄関まで追いかけてきて、泣きながら帰らんといて、帰らんといてとずっと言っていた。 靴も履き終わって、じゃあ帰るから。と振り返ったら、吉田が鼻水垂らしながら 「もう藤田くん僕の家来おへん?藤田くんまた来てくれるん?」 と言ってきた。「じゃあまだやってないゲームあるから来るわ。」と返すと、いきなり笑顔になって、 「来てな!絶対来てな!!」と鼻水まみれの顔のままでぶんぶん手を振っていた。 吉田は単純でバカだ。 なんとか塾に間に合って教室に入ると、大野に肩を叩かれた。 何かと思えば「ただの知り合いなのに吉田の家なんかに行かされるなんて、お前も災難だなあ」等と言われる。 確かに吉田の家は宅配係りをさせられる程近くはない。しかしそんなに損でもなかった。 俺は鼻で笑って、吉田の家でジュースとお菓子を貰った事や、散々ゲームで遊んだ事とかを大野に自慢してやった。 すると俺だけ得した自慢話にむっとしたのか、だんだん大野が不機嫌になってしまった。 ちょっと意地が悪かったと思って、帰り際の時に吉田に握らされたお菓子を一つやったら、なぜかもっと不機嫌になった。 家に着くと母ちゃんがテストについて訊いて来た。 成績の話と塾と勉強の話をしたあと、いつものように「成績の悪い子とは付き合わないのよ」と言われる。 吉田の家に行った事は内緒にした。塾には間に合ったけれど、遊んでた事がばれたら叱られるから。 「クラスに吉田君って子がいるらしいじゃない?いつも言うけど絶対関わらないようにね?」「うん」 去年から吉田とたまに話す事があった事も内緒にした。 帰り際の吉田は、わんわん泣いたせいか顔が真っ赤になってたけど、よく考えたら あれは動き回ってまた熱が上がってたんじゃないんだろうか。 吉田だといつまでも玄関前で手を振ってそうだけど、ちゃんとすぐ布団に入ったかな。 明日の給食は揚げパンとゼリーだから、両方持って行ってやろう。 バカは風邪引かないけど、引くと長引きそうだから。 ----   [[手袋>18-309]] ----

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