「18-289」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

18-289」(2010/02/21 (日) 19:28:02) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

お道具。 ---- 幼馴染が大学に合格した。 とても喜ばしいことだとわかっているけど、どうしても本心から喜んであげることはできなかった。 地元を選んだ俺とは違い、あいつの志望大学は隣の隣の県。 ここから通うには遠い距離で、受かれば一人暮らしを始めると屈託なく言い出したときには、 言葉に詰まって体当たりでやりすごした。 引越日は今週末に迫っており、今日は片付けの手伝いに来ている。 通いなれた隣家の部屋は、もうひとつの自分の部屋のようだったのに、ダンボールがひとつ増えるたびに 余所余所しさを漂わせていく。 体の中がどんどん重苦しくなっていくのを無視して、普段どおりの態度でひたすらに手を動かした。 「ここも適当に詰めていいよな?」 「あー、頼む。ちょっとガムテ取ってくる」 階下へと遠ざかる足音を背に、俺はここぞとばかりに深く深くため息をついた。 のろのろと押し入れの中にしまわれていた衣装ケースや、積まれていた本を少しずつダンボールに移し替えていると、 奥の方に懐かしい色をした箱があった。 小学生のときに粘土や絵の具などをしまうのに使った、お道具箱だ。 その古びた箱を取り出すと、留め金が壊れていたのか、蓋だけ残してすべて落ちてしまった。 「あっ……」 畳に散乱する、様々な小物。 紙粘土で作ったゾウ、色紙で作ったワッペン、流行っていたキャラクター柄のシャープペンシルにノート、使い古した筆箱。 版画の絵や、割れたCDまである。 それらの全てに見覚えがあった。 それらは全て、俺があいつにあげたものだった。 足元に転がっていた、不恰好に半分に切られた虹色の消しゴムを手に取る。 これは低学年の頃、筆記用具を忘れた幼馴染に、はさみで切って譲ったものだった。 多彩な消しカスができるのが楽しく、とても気に入っていたのでよく覚えている。 散らばったものをひとつひとつ箱に戻すたびに、怒涛のように思い出がよみがえってきて、目頭がカッと熱くなってきた。 マズイと思ったときには、ダダダダダダと階段を駆け上がってくる足音が響いた。 「押入れは……っ!」 惨状を認識して、しまった、というバツの悪そうな顔をした幼馴染と目が合う。 ごまかしようのない状態の俺を見て、幼馴染はすっと表情を消した。 いつもどおりの自分で、なんでこんなもの残してんだよって、笑って言おうとしたのに、口がうまく動いてくれない。 喉の奥が痺れて、何も言葉がでてこない。 こんなのはあいつが困るのに。どうってことないフリをして、最後まで笑って見送るつもりだったのに。 ようやく喋られるようになっときには、零れた涙は抱きしめてくるお前の腕が痛いからだと言い訳をした。 ----   [[馬鹿が風邪ひいた>18-299]] ----

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: