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「18-279」(2010/02/21 (日) 19:26:23) の最新版変更点
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普段コンタクトの奴が珍しく眼鏡
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「兄ちゃん…おかえり」
「おや、眼鏡なんだ?」
「コンタクト切らしちゃってて」
兄貴は荷物を解いているところだった。
分厚い本や、大学の意味のわからない講義テキストを、
小学時代から使っている古びた学習デスクの上に並べてる。
そんな重いもん、東京に置いてきてゆっくりすればいいのに。
使い捨てコンタクトを切らしたというのは嘘だった。
ただ、俺の持ってるのはギラギラのド緑の色したやつだし
くそ真面目の兄貴はそれが大っ嫌いでぐちぐち怒るから、
アレが帰省してる一週間は眼鏡っこぶろうというわけだ。ピアスも一個に減らした。
「…今日は先輩とメシ食う約束してっからまたすぐ行かなきゃなんねんだ。
また帰ってからな」
「えぇ~?久々に兄ちゃんカレー作ってやろうと思ってたのになんだよぉ。
ってそんな格好で行くの? 外寒いでしょうが。ほらこれしていきな」
「いらねーよ…んなマフラー俺のかっこにも合わねーだろ」
「暖かければいいじゃない。早く帰っておいでね」
「過保護ヤロー」
結局、兄貴がひとりで家にいるってわかってるのに、
深夜になってもドリンクバーで粘っていた。
「先輩、なんで今日そんなに嬉しそうなの?」
「そんなことねえよ」
「ねえねえ、なんかあったの?」
先輩の前だと俺は変に浮ついたテンションになる。
女の子みたいで、自分でもキメェけど、なっちゃうものはしょうがない。
先輩はお洒落だしカッコイイし話も面白いから、遊ぼうといわれると嬉しいし、
一緒にいるとずっと帰りたくない気分になってしまう。
先輩が嬉しそうだと俺も嬉しいな。
それに、気づいてる。今日はいつもと違う雰囲気なこと。
グレイアッシュのカッコイイ目で俺のことチラチラ見てる。
「いやぁ、面白いこと思い出してよぉ」
「なに?」
「なんでもねぇ」
なんの期待というわけでもないけど、胸がドキドキ高鳴ってた。
浮かれてた。
だけど、俺の心の奥底は、嫌なうずきもしていた。
「つか今日お前眼鏡じゃん」
「…カラコンなくしてさ。ってか、え?今さら?」
「似合ってる。ずっとそれでもいいんじゃね? 黒い目もあどけなくてカワイーよ」
愛おしそうに言われると嬉しいけど、でもだんだん心がモヤモヤしてくる。
このモヤモヤは…。
「高校時代のスグル思い出すわ。
こうして見ると、やっぱあいつと兄弟なんだなぁ」
ハイやっぱりきました。ですよねー。
こういう流れですよねー。ここから先ずっと兄貴の話題になるんだよねー。
高校時代ぜんぜん相手にされてなかったくせに。
チャラいし馬鹿だし乱暴だし、一番兄貴が嫌いなタイプじゃん。
もう名前すら忘れられてんじゃねぇの。
「あいつ今度いつ帰ってくんの?」
「いつだろ? 大学忙しいって言ってた」
「国立だもんなぁ。しかも特待だろ?すげーよなぁ。
家計支えてるし俺には真似できねーよ。あいつは俺らとは違って…」
ああ、聞きたくないな。
いつも図太い先輩の自虐。
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[[普段コンタクトの奴が珍しく眼鏡>18-279-1]]
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普段コンタクトの奴が珍しく眼鏡
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このところ忙しかったせいか、その人と久しぶりに顔を合わせたのはその日のお昼休みだった。
コンビニのハンバーグ弁当に集中していた俺が隣に気配を感じて視線を向けると
吉田さんが穏やかな微笑みを浮かべて会釈した。
「隣いいかな?」ということらしい。俺が頷くと、吉田さんはゆっくりと腰を下ろす。
手に持っているのは湯気の立つ湯のみと、コンビニ弁当
いつもは手作りなのに珍しいなぁとぼんやり考えていると、それ以上の違和感に漸く思い至った。
「あれ、今日は眼鏡ですか?」
我ながらなんと鈍い、吉田さんの眼元が見慣れぬ銀縁のフレームで覆われているではないか
「ああコレ?実はずっとコンタクトだったんだけどね。昨日眼鏡に戻してみたんだよ」
「眼鏡よりコンタクトの方が楽じゃないっスか?」と俺が尋ねると、吉田さんは困ったように言った。
「僕はどうもそそっかしくてね、よくコンタクトのまま寝ようとしちゃうんだよ」
そこで言葉を切ると、吉田さんは軽くため息をついた。どこか具合でも悪いんだろうか?そう言えば
手に持っている弁当もあまり減っていない。
「…今までは、そう…僕がそのまま寝ようとするたびに注意してくれる人がいてね。その人のおかげで
僕はコンタクトをはずし忘れることもなかったんだ。口うるさく思ったこともあるけど、こうしてみる
と有難かったんだな」
吉田さんの言葉を俺はただ黙って聞いていた。その人は誰なんですか?とか今は何処にいるんですか?
とか、聴きたいことはいくつもあってけど何か聞いちゃいけない雰囲気に思えた。
「その人に、つい先日言われたよ。『お前コンタクトは止めて眼鏡にしろよ、もう毎晩コンタクトはずせって
言ってやれないからな』ってね。まさか最後の最後にそんな心配をされるとは思わなかった。」
そう言ったっきり、吉田さんは黙って窓の方に視線を向けてしまった。勝手に言いたいことを言って黙って
しまうなんて先輩とはいえそれは無いんじゃないかと、多少不満に思いながらも俺は吉田さんに目を向ける。
見慣れた吉田さんの優しげな顔にはやっぱり眼鏡が見慣れない異物のようで、表情が分かりにくいのが
俺には酷く不満だった。
目許が一瞬光って見えたのはきっとレンズの反射とかであって、別に涙が浮かんでいるわけじゃない
いつも穏やかで感情を荒げたことも無い吉田さんが、俺なんかの前で涙を見せるわけが無い
俺は視線を弁当に戻してハンバーグに集中しようとした。
けれど浮かんでくるのは
吉田さんがまた元通り笑ってくれるなら俺が誰かの代わりに「コンタクトを外さなきゃ駄目ですよ」って
毎晩でも口うるさく言ってあげるのに…なんて考えても仕方のないことばかりだった。
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[[普段コンタクトの奴が珍しく眼鏡>18-279-1]]
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