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行く年来る年 ---- 「もう行くよ」 とあの人が言う。 「待って下さい、もう少し」 引き止める言葉は反射的に出るが、時間がないこともわかっている。 全てを終えようとしているあの人は、ちょっと困ったように笑った。 「仕事は全部引き継いだよ。みんなも次の新担当の話を始めてる。 お前、期待されてるよ、頑張れ新人」 「でも、俺……」 口ごもる俺を静かな声が励ます。 「自信ないとか言わないよな? 大丈夫、お前は立派にやれるよ。 俺もたくさん悪いことがあったよ。お前ならきっと、俺より上手くやれる」 「……俺なんかどうなるかわからないです。あなたみたいにはできない」 「もともと今月末までの一年の約束だ。 来月からはお前しかいないんだ、わかってるじゃないか」 「……はい、でも」 どうしようもないことは始めから知っている。 でも、教えてくれた様々なこと、俺のためにしてくれた丁寧な準備、去るにあたっての潔い始末…… あなたを思い返せば思い返すほど、別れ難いこの感情が沸き上がる。 ……あなたが行ってしまうのは寂しい。 今頃、みんなそれぞれに暖かい居場所で親しい人と過ごしながら、 あなたのことをいい思い出にしているのかもしれないけど、 俺だけはあなたを特別に思う。 「行かないで下さい」 顔を上げられない俺に、無茶を言うな、とはあの人は言わなかった。 黙ったまま俺の肩をぽんぽんと叩いて……その手が背にまわる。抱き寄せられる。 最後なのに。暖かい。 この人は明日にはもういなくなり、 俺も新しい仕事に追われて、この人のことを思い出しもしなくなるかもしれないのに。 さようなら。ありがとう。浄暗の闇の中、やがて俺達はすれ違い、永遠に別れる。 ----   [[寺、教会、神社の息子で三すくみ>18-149]] ----

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