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行く年来る年 ---- 「やあ」 「グーテンアーベント。お久しぶりです」 「一昨日も電話したのに、お久しぶりはないだろう。それにこっちはまだ夜じゃないよ」 「ああ、時差あるんでしたね。今何時です?」 「じきに16時。妙に明るいと思ったら、雪が降ってる」 「へぇ、ホワイト大晦日ですか。そっちの雪景色はさぞ絵になるでしょうね」 「眺めはともかく寒いな。ちょうどホットワインがうまいくらいの寒さ」 「……そういえばその声、いくらか酔ってますね。またそっちの教授に迷惑掛けてるんじゃないですか?」 「失礼だな、君。こっちは順調にやってるよ。それに私とハロルドは十年越しの親友なんだ。  少々面倒かけたくらいで迷惑とはいわない」 「すごい自信ですね。その図々しさ、ちょっと羨ましいくらいですよ」 「図々しいんじゃない、私は自由人なんだ」 「"鳥のように"?」 「そう、鳥のように。それで、そっちはどう?」 「相変わらずです。寒いし部屋は汚いしあなたは居ないし。今年も論文に埋もれて年越しですよ」 「素敵な年越しだね」 「ええ。ありがたくって涙が出ます」 「蕎麦は?」 「食べましたよ。インスタントだけど」 「……追い込みの最中に外食しろとは言わないから、せめて出前くらい取りなさい。  あんなのは蕎麦と呼べない代物だ。ああ、私もそろそろ本物の日本食が食べたい」 「なら、ふらふらしてないでとっとと帰ってくればいいのに」 「これも仕事のうちだ。私だって好きこのんであっちこっち渡り歩いてるわけじゃない」 「鳥のように自由な暮らしが気に入ってるんじゃなかったんですか?」 「それはそうだが、鳥だって日暮れにはねぐらが恋しくなるだろう?  私も年の暮れくらいは君のところへ帰りたい」 「……鳥はずっと鳥籠に閉じ込めておきたいたちなんですがね、僕は」 「ん?何だって?」 「いいえ、何でも。せめて寄り道せずに真っ直ぐ帰ってきてくださいね。  今年中は無理でも、せめて正月には会いたいですから。チケットは?」 「手配済みだ。飛んで帰るよ」 「じゃあ、両手を広げて待ってますよ、空港で。遠慮なく飛び込んできてください」 「それは嫌だな。帰るのよそうかな」 「ひどいなぁ。……あ、鐘だ」 「金?小銭でも落ちてたか?」 「鐘ですよ、除夜の鐘。あなたのその煩悩も除いてもらえるといいですね」 「私の煩悩がすっかり無くなったら君、困るんじゃないのか」 「そこまで霊験あらたかなら、僕の煩悩ももれなく消滅するからイーヴンでしょう。  ……明けましておめでとうございます」 「おめでとう。今年もよろしく 」 ----   [[行く年来る年>18-129-1]] ----

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