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戦闘機乗り ---- この瞬間が、いつも緊張する。コックピットに身体を沈め、すうっと深く息を吸うと世界が自分と機体だけになるのだ。 愛機と繋がり合う一瞬。幸福と、緊迫。 そらに出れば敵が待っているにしては不謹慎な感慨だった。 「隊長さーん!」 「うわっ」 ふたりきりの世界をぶった切った声は天才整備士のものだった。 なにか不備が見つかったのかと目で問うと、彼は非常時にこれまた不似合いな人懐こい笑みを浮かべた。 「機体はなんの問題もありません! なにせ俺は天才ですからっ」 「じゃあどしたの」 整備士はまだ幼さの残る風貌ににわかに影を落とした。 天才といえどまだ二十歳になったばかりである。不安がないはずがない。 「おまじないです」 「おまじない?」 不意に手を取られる。面食らって、自分の手の甲を見つめた。 「ご武運を、天才パイロット」 つぶやいて、優しいキスを施された。ぎょっとして勢いよく手をひっこめる。 「なっなにすんだ!」 整備士は、神妙な面持ちだった。 「天才といえど、失敗があるかもしれないでしょう。だから、天才整備士からのおまじないを」 「……整合性に欠ける」 「欠けません!」 また手を捕まえられる。強い力。底なしのぬくもり。 胸がきゅっとした。 「僕はあなたの愛機の整備士です。ということは、その主の隊長さんの ことも気遣ったり安全を願ったりするべきなんです!」 「……そうか」 「そうです」 その勢いに圧倒され、なんだかほだされたように納得し、頷いていた。 それでもいいか、と思った。 「んじゃ、もっかい頼むよ、おまじない」 「へっ?」 整備士が間抜けな顔になった。くすりと、笑いがもれる。 緊張がほぐれたのがわかった。 「いつもよりもっと調子出そうな気がするからよ」 気障に笑って見せる。 天才パイロットは、いつでも恰好いい己でいたかった。 整備士はぱあっと表情を明るくし、ふたたび手の甲にキスをしてきた。 「ご武運を、天才パイロット」 心が澄んでいく。絶対に勝って、すべてを守る。 彼の唇のあとに自分のそれを合わせながら強く誓った。 ----  

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