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来ないで ---- 君が、光る女性の唇を、かわいいねと褒めたから。 姉の口紅を塗ったのは、ほんの好奇心だったのに。 「―――来ないでッ!」 ドア越しに僕は怒鳴った。 こんな大声は久しく出していなくて、喉がヒリヒリと痛んだ。 「…どうした?」 僕のみっともなく掠れた声を聞いた彼が、心配そうに声を掛けてくる。 「君にだけは…見られたくないんだ…。」 噛み締めたピンクの唇はぬるりとすべって、人工的な味が惨めさと共に喉を流れた。 違うんだ。 僕が本当になりたかったのは。 こんな姿じゃなくて。 ドン!とドアを乱暴に叩く音にびくりとして、一瞬背が浮いた隙に彼はドアを開けた。 「!」 「お前、何――――…ッ?」 僕の顔を見た彼の口許がひきつる。 ああ、だから、君にだけは見られたくなかったのに。 だが彼は踵を返すこともなく、瞬きもできないまま涙を流す僕の唇を、自分の袖口でぐいっとこすった。 「痛、ッ…!」 「…お前にはこんなモノ、必要ねえよ。」 気がついたら僕は彼の胸の中にいた。 じわじわと僕の涙が彼の胸元をしめらせていく。 涙の理由は、すでに変わっている気がした。 ----   [[来ないで>16-889-1]] ----

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