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別れの言葉 ---- 平日朝イチのN駅新幹線ホームは、静かだった。 三月終わりとはいえ朝はまだ冬の気配が色濃くて、キンと冷えた空気が人気の少ない静かなホームを包んでいる。 「なんで、入場料わざわざ払って、ホームにまでくるかな。...つか、こんな朝早くに見送りに来なくたっていいのに」 「えー?誰かが見送った方が『旅立ち』って感じがしね?」 「裕介はあさって出発だっけ?」 「そう。入寮日が決まってるから」 この四月から、俺は京都で裕介は北海道で、それぞれ大学生活が始まる。 小中高と同じ学校で、気がつけばいつも一緒にいて、一緒にいるのが当たり前で。 でも、俺は高校に入った頃から一緒にいるのが辛くなってきていた。 裕介のことが好きだと、俺自身が気がついてしまったから。 自覚してしまうとどうしようもなかった。 一緒にいればいたで裕介の言動に内心で一喜一憂し、離れていればいたで今頃裕介は何をしているだろうかと悶々とし、夜寝る前にはその日の自分の行動に自分の気持ちが現れた不自然な行動がなかったかを思い返してドキドキし、一度は裕介を見ないようにすれば少しは楽かと部活に熱中して裕介から距離を置こうとしてみたが、裕介はそんな俺の気持ちなんか知らずに無邪気に近寄ってくるからあえなく挫折し。 お互い、どうしてもやりたいことがあるから選んだ大学は遠く離れていて、俺は寂しく思うと同時にほっともしたのだ。 ホームに滑り込んできた掃除済みの始発新幹線が、俺の立っていた乗車位置表示の前に、ぴったりとドア位置を合わせて止まった。 乗車案内のアナウンスと圧縮空気の抜ける音とともにドアが開く。 俺はバッグを持って新幹線へ乗り込んだ。 デッキで振り向くと、裕介と目が合った。 「新生活、がんばれよ」 「ああ、明日にはもうこの笑顔には会えないんだ」と思った時、俺の胸の中に大きな熱い塊がうまれた。 何を言うつもりだ?止めておけ。盆や正月にたまに顔を合わせて、思い出話に花を咲かせて笑いあう、そんな未来を捨てるのか? でも、遠い場所で俺の知らない人間達と出会う裕介に、次第に忘れられていくことに俺は耐えられるのか? ならばいっそ、ここで自分の気持ちを口にしてしまえば楽になるじゃないか... 喉元にせり上がるものを押さえつけるように唇を噛み、グルグル考えていた俺の耳に発車ベルが聞こえてきた。 俺は、その音に背中を叩かれたかのように、その言葉を口にしていた。 「裕介。俺、お前が好きだった。ずっと好きだった!」 裕介の目が大きく見開かれる。 その表情から目を逸らし、「元気でな!」と捨て台詞のように口走りながら俺はデッキの奥に逃げ込もうとした。 突然、ぐいと、腕をつかまれた。 発車ベルの響く中、無理矢理振り向かされて、デッキの壁に押し付けられる。 俺を追いかけるようにデッキに乗り込んだ裕介の顔が、目の前にあった。 「本当?本当に?!」 裕介は俺の返事を聞くより先に俺の唇を自分の唇で塞いだ。 発車ベルが途切れ、ドアが閉まり、新幹線が動き出す振動が体を揺らした。 唇を離した裕介に、俺は力いっぱい抱きしめられた。 「夢じゃないよな?嘘みたいだ。お前も同じ気持ちでいてくれたなんて」 裕介の言葉が聞こえてくるけれど、意味がよくわからない。...え?あ、いや、それよりだ。 「裕介、新幹線、出発しちゃったぞ」 「んなこと、どうでもいいって!」 「よくないだろ。切符持ってないだろ」 「...あ...ああああああ!!...京都までいくらだ?」 「新幹線で2万円ちょい」 「往復4万....って...あああ、貯金箱のお年玉が飛ぶ....」 「いや、次の停車駅で降りて帰ればいいんじゃないか?」 「お前、この状況でその選択があると思ってるのかよ?」 「いや、その選択が普通だし」 俺の両肩を掴んで、裕介は俺の顔を覗き込んだ。 「せっかく、実は両思いだったことがわかったのに、すぐに別れ別れなんて我慢できるかよ!ああ、話したい事がいっぱいあるぞ。話せなかったことがいっぱいあるんだからなっ!」 「両思い....え...え?」 「オレも、お前が好きだ。ずっと、こうしたかったんだ」 軽く唇に触れるだけのキスをした裕介は、まだ状況が信じられない俺の様子に少し困ったように笑って、取り落としていた俺のバッグを持つと自由席の方へ俺の手を引いた。 「切符は改札が来たら買うことにして、とりあえず座ろう。京都まではまだまだ時間があるんだ、ゆっくり納得させてやるよ」 結局、京都まで一緒に来た裕介は、まだ荷物もろくに無い俺の新居に一泊して帰った。 手持ちの金が足りなくて、帰りの切符代の一部を俺に借りて。 京都駅まで送りにきた俺への別れの言葉は、「今度会った時、金、返すから!」だった。
別れの言葉 ---- 平日朝イチのN駅新幹線ホームは、静かだった。 三月終わりとはいえ朝はまだ冬の気配が色濃くて、キンと冷えた空気が人気の少ない静かなホームを包んでいる。 「なんで、入場料わざわざ払って、ホームにまでくるかな。...つか、こんな朝早くに見送りに来なくたっていいのに」 「えー?誰かが見送った方が『旅立ち』って感じがしね?」 「裕介はあさって出発だっけ?」 「そう。入寮日が決まってるから」 この四月から、俺は京都で裕介は北海道で、それぞれ大学生活が始まる。 小中高と同じ学校で、気がつけばいつも一緒にいて、一緒にいるのが当たり前で。 でも、俺は高校に入った頃から一緒にいるのが辛くなってきていた。 裕介のことが好きだと、俺自身が気がついてしまったから。 自覚してしまうとどうしようもなかった。 一緒にいればいたで裕介の言動に内心で一喜一憂し、離れていればいたで今頃裕介は何をしているだろうかと悶々とし、夜寝る前にはその日の自分の行動に自分の気持ちが現れた不自然な行動がなかったかを思い返してドキドキし、一度は裕介を見ないようにすれば少しは楽かと部活に熱中して裕介から距離を置こうとしてみたが、裕介はそんな俺の気持ちなんか知らずに無邪気に近寄ってくるからあえなく挫折し。 お互い、どうしてもやりたいことがあるから選んだ大学は遠く離れていて、俺は寂しく思うと同時にほっともしたのだ。 ホームに滑り込んできた掃除済みの始発新幹線が、俺の立っていた乗車位置表示の前に、ぴったりとドア位置を合わせて止まった。 乗車案内のアナウンスと圧縮空気の抜ける音とともにドアが開く。 俺はバッグを持って新幹線へ乗り込んだ。 デッキで振り向くと、裕介と目が合った。 「新生活、がんばれよ」 「ああ、明日にはもうこの笑顔には会えないんだ」と思った時、俺の胸の中に大きな熱い塊がうまれた。 何を言うつもりだ?止めておけ。盆や正月にたまに顔を合わせて、思い出話に花を咲かせて笑いあう、そんな未来を捨てるのか? でも、遠い場所で俺の知らない人間達と出会う裕介に、次第に忘れられていくことに俺は耐えられるのか? ならばいっそ、ここで自分の気持ちを口にしてしまえば楽になるじゃないか... 喉元にせり上がるものを押さえつけるように唇を噛み、グルグル考えていた俺の耳に発車ベルが聞こえてきた。 俺は、その音に背中を叩かれたかのように、その言葉を口にしていた。 「裕介。俺、お前が好きだった。ずっと好きだった!」 裕介の目が大きく見開かれる。 その表情から目を逸らし、「元気でな!」と捨て台詞のように口走りながら俺はデッキの奥に逃げ込もうとした。 突然、ぐいと、腕をつかまれた。 発車ベルの響く中、無理矢理振り向かされて、デッキの壁に押し付けられる。 俺を追いかけるようにデッキに乗り込んだ裕介の顔が、目の前にあった。 「本当?本当に?!」 裕介は俺の返事を聞くより先に俺の唇を自分の唇で塞いだ。 発車ベルが途切れ、ドアが閉まり、新幹線が動き出す振動が体を揺らした。 唇を離した裕介に、俺は力いっぱい抱きしめられた。 「夢じゃないよな?嘘みたいだ。お前も同じ気持ちでいてくれたなんて」 裕介の言葉が聞こえてくるけれど、意味がよくわからない。...え?あ、いや、それよりだ。 「裕介、新幹線、出発しちゃったぞ」 「んなこと、どうでもいいって!」 「よくないだろ。切符持ってないだろ」 「...あ...ああああああ!!...京都までいくらだ?」 「新幹線で2万円ちょい」 「往復4万....って...あああ、貯金箱のお年玉が飛ぶ....」 「いや、次の停車駅で降りて帰ればいいんじゃないか?」 「お前、この状況でその選択があると思ってるのかよ?」 「いや、その選択が普通だし」 俺の両肩を掴んで、裕介は俺の顔を覗き込んだ。 「せっかく、実は両思いだったことがわかったのに、すぐに別れ別れなんて我慢できるかよ!ああ、話したい事がいっぱいあるぞ。話せなかったことがいっぱいあるんだからなっ!」 「両思い....え...え?」 「オレも、お前が好きだ。ずっと、こうしたかったんだ」 軽く唇に触れるだけのキスをした裕介は、まだ状況が信じられない俺の様子に少し困ったように笑って、取り落としていた俺のバッグを持つと自由席の方へ俺の手を引いた。 「切符は改札が来たら買うことにして、とりあえず座ろう。京都まではまだまだ時間があるんだ、ゆっくり納得させてやるよ」 結局、京都まで一緒に来た裕介は、まだ荷物もろくに無い俺の新居に一泊して帰った。 手持ちの金が足りなくて、帰りの切符代の一部を俺に借りて。 京都駅まで送りにきた俺への別れの言葉は、「今度会った時、金、返すから!」だった。 ---- [[嵐>15-709]] ----

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