「16-829」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

16-829」(2009/07/12 (日) 00:13:22) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

男の娘受け ---- 「ですから」 楓は、困惑したように眉を寄せた。 「僕は普通の男なんですよ。こんな格好をしていますし、顔も父よりは母似ですが」 「知っている」 そう言うと表情が歪んだ。警戒の色はますます濃くなる。 「知ってるのなら尚更……本気なんですか、僕を『娶る』だなんて」 「分家風情は、本家の命令には逆らえんのさ」 「そんなのおかしいです」 言いながら後ずさろうとするが、その後ろにはもう壁が迫っている。 向こうもそれに気付いたのか、一瞬だけこちらから視線が外れた。 その隙に距離を詰めて、手首を掴む。「痛い」と小さく漏れた声は無視して、その手をじっと眺めた。 「細い腕だ。色も白い。今このときでも、女だと言われたら信じそうになる」 子供の頃に一度だけ、楓を見たことがある。 父に連れられて、旧正月の挨拶をしに本家を訪れたときのことだ。 ――あそこにいるのが本家の紅葉ちゃんと楓ちゃんだ。一緒に遊んで来るか? 父が指した先の部屋には『女の子』が二人いた。二人はお揃いの着物を着て、人形遊びをしていた。 そのときは、自分は男だから人形遊びなどしないと言った。父は残念そうな顔をした。 子供心に、ああ父は本家の姉妹に自分を近づけたいのだな、とわかった。 子供なら無邪気さを盾に、本家も分家もなかろうと考えたのだろう。 結局、姉妹とは一言も言葉を交わさないまま家に帰った。 あれが『姉妹』ではなく『姉弟』だと知ったのは、それから随分後の話だ。 彼とはそれ以来、十数年振りの邂逅だった。 「――離してください!」 思いのほか強い力で振り払われそうになって、我に帰った。 慌ててすぐに手を離したのだが、楓は強く睨みつけてくる。 「貴方は本家の命令なら何でもきくんですか。女の格好をしてる男を本妻として迎えるなんて正気じゃない」 「まあ、自覚はあるさ。だが俺を正気じゃないと言うなら、お前の母親はどうなんだ?」 そう言った途端、楓の表情が強ばった。 本家に生まれた男子はまず女の格好をさせるのが、家に伝わる古くからの因習だった。 大事な男子を『外側のモノ』に気に入られて連れ去られないため、だとされている。 しかしそれは幼い頃だけの、形式上の話で、成長してもなお引きずる類のものではない。 だが、目の前にいる楓は今も女物の服を着て、黒髪も美しく伸ばしたままだ。 殆ど日に当たっていないのか肌は透けるように白く、身体つきも華奢だった。 「跡取りとして育ててきた息子をこのまま分家に『嫁がせる』、突然そんなことを言い出したのはお前の母親だ。違うか?」 静かに問うと、楓は苦しそうな表情になって目を逸らした。 「お前にしても同じだ。因習だかまじないだか知らないが、お前の言うとおりこの件は普通じゃない。 だが俺に拒否しろと言う前に、お前が拒めばいい話じゃないのか。なぜそれをしない?」 「それは…」 「何があった。………なぜ、お前の姉は死んだ?」 胸の内にあった疑問をぶつけてみたが、答えはない。その代わりのように 「母さんは、もう正気じゃありません」 と小さな呟きが返って来た。 そして更に細い声で「きっと僕もおかしくなっているんです」と続く。 さっきまでの勢いは消え、弱々しく顔を伏せる楓は、やはり見目は女のようだった。 「似ているな」 無意識に漏れた呟きに、楓が「え?」と顔をあげた。ひどく無防備な表情だった。 ――本当によく似ている。紅葉に。 そう思った瞬間、抱き寄せて唇を重ねていた。 楓の身体は強張ったが、なぜか抵抗はない。逆に力が抜けたように、こちらに寄りかかってくる。 ほどなくして唇を解放して、楓の耳元で囁く。彼に、そして自分に言い聞かせるように。 「俺はお前を娶る」 自分でもどうかしていると思う。 しかし、目の前のこの男を手元に置きたいという思いは本心だった。 ただ、その思いが、数ヶ月前のあの電話の所為だけなのか、既にわからなくなり始めていた。 ――もしも私に何かあったら弟を……楓を、どうか助けて。お願いします。 ----   [[男の娘受け>16-829-1]] ----

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: