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心が別の方向いてるやつがいい…! ---- シュウは本命がいる奴としか付き合わない。 そして付き合う前に言っておく。 『体は好きにしてもいいけど暴力は不可。自分は愛人で体だけの関係。 それが守れなくなったらキレイに別れること。それでもいいならつきあってもいいよ』と。 そんな約束をしていても、ほとんどの奴が本命を捨ててシュウに走る。そんな時に俺の出番が来る。 そいつの前でだけ俺はシュウの『本命』になって、彼がいなくて寂しかったからだの、 彼じゃないとダメだの、シュウが心にもないことをペラペラと訴えて終結させる。 なんで俺なのかと聞いたらば、俺が逆恨みされても自分で自分を守れそうだったからだそうだ。 今日は人気のないビルの屋上で、空が青いなと思いながら聞いていた。 タバコを吸いたくなったが、納得しかかっている相手を怒らせる事になるので我慢した。 何度も続くと、さすがに水戸黄門みたいで飽きる。 相手の男が泣きながら出て行った後、シュウは俺にタバコを一本くれと言った。 普段は吸わないが、ストレスが溜まるのか、こういう場面の後には必ず言う。 「今回は本当にしつこかったなあ」 「相手は選べよ」 「選んだよ。男同士なんて不毛だって言ってたし」 確かに不毛だが、シュウが相手だとそんなことはどうでもよくなるのはわかる。 こいつの毒牙にかかった奴は毎度の事ながら気の毒だ。 「もうそろそろいいだろ」 「何が?」 「俺とつきあおうぜ」 「絶対に嫌だ。だってお前、俺の事好きだもん」 「まあね」 他の奴が言ったら許されない台詞だな。 「心なんて俺に向いてなくていい。別の方に向いている奴がいい」 ほら出た。助さん格さん45分。 「体だけでいいって言ってるだろ」 まあ俺もお代官並みに同じ事しか言わないが。 「そういう奴に限って、心まで欲しいって言い出す。重い」 同じ台詞しか返ってこないし。 ここまではいつもどおりの進行だった。だがたまには予想外の展開がないと観てる方も飽きる。 俺はタバコごとシュウの腕をつかんで引き寄せた。 こいつの手首にはうっすらと刃物で切った跡がある。 心中しようとして、自分だけ死に損なった跡だ。 「このままお前を犯す事だって出来るぞ」 シュウはじっと俺の目を見ながら答えた。 「……それならいいよ?」 俺が望んでいた答えはくれなかった。 俺はつかんでいた手を離した。 「しないの?」 「また『本命』探すのが大変だぞ」 「それもそうか」 「もうそろそろ恋愛しろよ」 「お前と?」 「俺じゃなくてもいいんだよ。見てらんないからさ。痛々しくて、お前」 「痛くなんかないよ。俺、痛いの嫌いー」 ヘラヘラと笑って手を振りながらシュウは階段を降りていった。   こいつの心を奪っていった奴にはもう誰もかなわない。 俺は空に向かって煙を吐いた。 ----   [[おしゃべりワンコ系×無口素直クール>16-819]] ----

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