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裏切り者の憂鬱
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とある組織に潜入する、ありていに言えばスパイだ。
物好きな幹部クラスの奴を適当にたらしこんで、適当にいい思いをさせてやりながら、
がっつかずに情報を仕入れる。そして欲しい情報が揃ったらハイサヨウナラ。
上手くやるコツは、仕事熱心だと思わせること、機密情報を聞いても興味のないフリをして
他愛もない話へすぐスライドすること、自分が相手に惚れてしまっていると勘違いさせること、
あとはベッドの中で数分でもいいから相手を忘我状態にすること。
男相手ということに免疫がない奴ほど、上手くいきやすかった。特殊な状況に冷静な判断ができなくなるらしい。
「お前も物好きなヤツだ」
こちらに背を向けてシャツの袖に腕を通しながら、今回の『お相手』がぽつりと言った。
「俺なんかに近づいても何も出ないぞ。俺は地位も力も何もない、ただの落ちこぼれだ」
「ヤることヤッといてその言い種はないでしょ。それに落ちこぼれは室長になれないと思うんですけど」
冗談めかして言ってやると、彼は少し押し黙った。
「…あんな役職はただのお飾りだ。お前はまだウチの内情を知らないからわからんのだろうが」
その声の裏には何か暗い感情が押し込められていたが、気づかないフリをする。
「ふーん。ま、どうでもいいけど」
興味なさそうにすると彼はこちらを振り返った。すかさずその瞳をとらえて笑う。
「俺はあんたが面白そうと思っただけで、別に室長だろうがチーフだろうが関係ないから」
「………実際に寝てみたら、期待外れだっただろう」
「んなことないよ。やっぱりあんた面白いよ」
彼個人に好感を持っているのだと思わせていく。
ひねくれた言い回しはわざとだった。経験上、こういう男にはこの『性格』が効果があったから。
実際、彼は俺の言葉に眉を寄せたが、出てきた言葉は呆れを含んではいたが柔らかいものだった。
「おかしなヤツだ」
その口元が僅かに緩んでいるのを見て、確信する。
今回も上手くいく。
いつものやり方だ。適当な相手を適当にたらしこんで適当な時期に消える。
そう、いつもの。
シーツにくるまって、笑顔で相手を見返しながら、俺はいつものようにぼんやり思う。
ああ、俺はまた裏切り者になるのだな、と。
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[[女好きのノーマルが男にハマる瞬間>16-719]]
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