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禁じられた遊び ---- 「いって、…あ。  お前爪切り持ってる?引っかけて割れちった」 「あぁはい、ちょっと待ってください…はい」 「ありがと」 「あー結構いってますね、痛そー」 「切んなきゃって思ってた矢先にこれだもんなぁ」 ぱちん、ぱちん。 「そういやさ、お前の爪綺麗だよな。何かぴかぴかで」 「あーこれトップコート塗ってんすよ。割れないように」 「トップコートってマニキュアみたいなやつ?あれいいの?」 「んー短いとどうなんすかねぇ。俺は伸ばしてるんで」 「そういえば右だけ長いよな、何で?長いとギター弾くのに邪魔じゃね?」 「あ、俺サークルとは別でクラシックギターやってんすよ」 「あぁ、なるほど。クラシックは指弾きなんだっけ」 「はい。だから逆に切れなくて」 「ふーん」 ぱちん、ぱちん。 「なあ、クラシックギターっつったら、アレ出来んの?ほら何だっけあの、有名なやつ」 「あぁ、『禁じられた遊び』すか?」 「そうそうそれ」 「まぁ、はい一応。基本っていうか、大体通るんじゃないすかね。ピアノで言う『エリーゼのために』みたいな」 「へぇ、そうなんだ。今度弾いてみてよ」 「あーいっすよ」 ぱちん、ぱちん。 「……あのさ、」 「はい?」 「別に俺、爪くらい自分で切れるんだけど」 「だって先輩『お前のせいで体ダルい。動きたくない』って言ってたじゃないすか、しかもつい5分前」 「それはお前…」 「昨夜だって夜中に押し掛けて『俺お前がいなきゃ何にも出来ねぇの』って甘えてきたくせにー」 「だっ、あれはお前が水だっつってアホほど焼酎飲ましたからだろ!?」 「先輩酔っ払うとあんなカワイイんすね。あー写メっときゃよかった」 「バカ言ってんじゃねぇよ、俺はいつでもカワイイですー」 「彼女の前でも?」 「まあねー」 「えー、きもーい」 「てめえこの野郎…」 「危ない危ない、肉切っちゃいますって」 「あ、ごめん」 ぱちん、ぱちん。 「…俺ら、いつまでこんなこと出来んすかね」 「まぁ、あいつが帰ってくるまでだろうな。だからあとひと月か」 「…さらっと言いますね」 「だってそういう約束じゃん」 「そうですけどー  …ねぇ、俺らもスペイン行きません?」 「何でだよ、行き違いじゃん」 「そうじゃなくて。…もういいです」 ぱちん、ぱちん。 「…『遊び』ってことにしとかなきゃ、ダメなんだよ」 「え?」 「若気の至りってことにしとくべきなの、こういうのは」 「何すかそれ」 「本気になって後々拗れる前に、逃げ出せるようにしとかなきゃ。みんなが辛くなる。本気に泥沼にハマってもがくのはカッコワルイから嫌なの」 「…そういう人っすよね、アンタ」 「お前だってそうだろ」 「そうだったはずなんすけどねぇ」 伸びすぎて割れてしまっては、手遅れなのだ。 そのヒビが誰かを傷つける前に、綺麗に切り取らなければ。 ぱちん、ぱちん。 白く尖った欠片はゴミ箱に消えた。 ----   [[コーチ・監督>16-699]] ----

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