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文系世話焼き×理系ひきこもり ---- カーテンを思い切りシャッと開ける。 「……まぶしい」 かすかな抗議の声が万年床の中から聞こえてくる。布団の中でまぶしいもんか。 「昼なんだよ、起きろ」 この春大学生になったばかりの聡文が引きこもりだしたのは、3週間前からだ。 小中高と、一学年違うだけでずっと後からついてきた聡文は、大学までも同じ所についてきて、 何故かゴールデンウィーク明けから講義に出て来なくなった。 1年先輩で学部も違う俺が、こうして毎日面倒を見ている。 と言っても、コンビニで適当な食べ物を買って食べさせるぐらいだが。 親元を離れるにあたって、幼なじみとして、奴のお母さんにくれぐれも頼まれているのだ。 「もう、来ないで」 聡文は布団から顔も出さない。 「お前ね、俺が来なかったら飢え死にするぞ」 「コンビニくらい自分で行く」 「だからって、1人で生きていけるわけもないだろう」 もぞ、と聡文は身を起こした。一週間ぶりに顔を見た。 「1人で生きていく、だから帰って」 「馬鹿なことを」 笑い飛ばそうとして、思いがけず強く否定された。 「裕紀にいちゃんにはわからない」 うつむいたまま、それでも引きこもってから初めて自分から話し出した聡文は、 布団に隠って暑かったせいか真っ赤だ 「──生物は。遺伝資源を残すだけの運び屋に過ぎない」 「へ?」 「俺という存在は、体の細胞生かす仕組みってだけなんだ、  生物は連続する化学反応の連続だよ、  個々の細胞が生きて、組織になって器官を形成し、歩いたり食べたり考えたりしてるけど、  感情は神経伝達物質の結果にすぎず、細胞の生命活動はただの膜反応だ、  だから……俺が生きていくのに、裕紀にいちゃんは関係ない。  俺は俺の化学反応を最低限維持するから、もう来ないで」 「ちょ、ちょっと、何言ってるの?」 高校の生物で聞いたような事を淡々と並べる聡文に、頭がついていかない。 「……はは、青春じゃん?生きるって何って話なんだ?」 努めて明るく返そうとしたら、まるで聡文をからかうような調子になった。 「笑うなよ!出てけよ!」 今度こそ聡文は叫んだ、もう堪えられないというように。 「……裕紀にいちゃんは、大学に入っていろんな女の子とつきあってて……  俺は……もう一生誰も好きにならずに生きていくから……!」 はっと思い当たったのは、ゴールデンウィーク前に無理矢理付き合わせた合コン。 初めての合コンということで、初心さが受けて聡文はモテモテだった。 思い出す、涙目の聡文。助けを求めるように俺を見た…… 「だから、帰ってよ……もう来るな!  裕紀兄ちゃんはそうやって結婚でも何でもすればいい!」 聡文は再び布団に潜り込む。合コンの時と違って、俺を拒むように。 フ、フ、と笑い声が聞こえた。いつの間にか笑っている俺の声だった。 「……お前誰に向かって口聞いてるんだよ、お前が、1人で生きていける訳ないでしょ」 嘲笑?……違う、俺は頭に来たのだ。 「人間何のために生きてるかって言や……愛だよ、愛」 つまり聡文は理系なのだ。ならこっちには文系の理屈がある。 「歴史も文化も芸術も、人間が愛憎の力で作り出してきたものだ、それが、生きる理由だよ」 無理矢理布団に潜り込む。抗う腕と足を絡めて封じ込める。 耳に吹き込んでやった。 「お前、考えすぎなんだよ……人は、愛するだけで生きていける生き物だ」 少しだけ、責任重大だな、と思った。 ----   [[へたれ関西弁×クーデレ>16-549]] ----

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