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出版社営業×本屋バイト ---- また来てるよこの人。このクソ暑いのに背広着ちゃって。 あーあ、顔なんか真っ赤。背中もぐっしょり。見苦しいなあ。 客もイヤな顔してる。レジの前邪魔だよ。どけって。暑苦しさがうつるんだよ。 どうせまた追い返されるだけなのに、まったく迷惑な人だ。 「暑いですねえ」 なんで俺に話しかけんだよ。なんだその笑顔。 顔見知りになったからっていいことないぞ。俺はただのバイトだ。誰にでも媚売るなよ。 ていうか、アンタだっていい加減分かってるんだろう? 聞いたことも無いようなドマイナー作家のエッセイなんて売れるわけないって。 そんなヤツのために走り回って、頭下げて。笑顔振りまいて。なにやってんだよ。 アンタ本当にそんな仕事がしたかったのか? 「キツイですね」 彼は困ったように笑った。しまった。いつのまにか声に出していたらしい。 「…最初は正直つまんなかったですよ……でも……」 社員が事務所からやってきた。彼は言葉を切る。 そしてなぜか意を決したように、俺を見た。 「だんだん好きになってきたんです。……本が」 照れくさそうにそう付け加えて、彼は赤い顔のまま社員の元に近寄っていった。 今日もきっと、すげなく追い返されるだけだろう。 なら次もまた来る。まったく迷惑な人だ。暑苦しさがうつるんだよ。 ----   [[八方美人×人付き合い不器用>3-039]] ----
出版社営業×本屋バイト ---- また来てるよこの人。このクソ暑いのに背広着ちゃって。 あーあ、顔なんか真っ赤。背中もぐっしょり。見苦しいなあ。 客もイヤな顔してる。レジの前邪魔だよ。どけって。暑苦しさがうつるんだよ。 どうせまた追い返されるだけなのに、まったく迷惑な人だ。 「暑いですねえ」 なんで俺に話しかけんだよ。なんだその笑顔。 顔見知りになったからっていいことないぞ。俺はただのバイトだ。誰にでも媚売るなよ。 ていうか、アンタだっていい加減分かってるんだろう? 聞いたことも無いようなドマイナー作家のエッセイなんて売れるわけないって。 そんなヤツのために走り回って、頭下げて。笑顔振りまいて。なにやってんだよ。 アンタ本当にそんな仕事がしたかったのか? 「キツイですね」 彼は困ったように笑った。しまった。いつのまにか声に出していたらしい。 「…最初は正直つまんなかったですよ……でも……」 社員が事務所からやってきた。彼は言葉を切る。 そしてなぜか意を決したように、俺を見た。 「だんだん好きになってきたんです。……本が」 照れくさそうにそう付け加えて、彼は赤い顔のまま社員の元に近寄っていった。 今日もきっと、すげなく追い返されるだけだろう。 なら次もまた来る。まったく迷惑な人だ。暑苦しさがうつるんだよ。 ----   [[出版社営業×本屋バイト>3-029-1]] ----

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