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酌み交わす ---- 「久しぶり」 とうとう来たか。できれば最後までお前とは話したくなかったよ。 内心の思いを隠して「よー」と応える。 部活の同窓会で、仲良かったメンツが14人も揃っている中なんだから、何食わぬ顔でスルーもできただろうに。 高校卒業以来6年ぶりに見る中谷は、仕事で鍛えた男の顔になっていた。 ……いやいや、単に老けただけだろう。こいつもおっさんになったもんだ、と思い直す。 「ビール?」 「いや、こっち」 あまり減ってない目の前の徳利を指し示すと、 「元気だった?」 慣れた仕草で熱燗をつがれる。 「まあね」 俺も、社会人の義務として、酌を返す。 嫌々なのを気取られないように、黙って酒をなめる。 まったく、こいつに酌をする日が来るなんて。 健全な卓球部員だった俺達は、飲酒とは無縁の真っ当な高校生だったから。 何より、もう二度と口をきくことはないと思っていたから。 本当は、顔も見たくない。中谷が来ると知っていれば、俺は来ないつもりだった。 幹事に聞いたら、急に予定を変更して来られる事になったと言う。 まさか、俺が来ると知ってのことじゃないだろうな? なのに。 なのに、 「嬉しいよ、こうして加藤と飲めるなんてさ」 などと、どの口が言うのだ。 あまり強くないからセーブしてたのに、返答できないから猪口の酒は減っていく。 「一時は……お互い気まずかったけど……」 と、さすがの中谷も言いにくそうで、奴もピッチが速い。 その、盃に伏せられた目がちらり、と俺を見て、もう大丈夫だよな?と、訴える。 俺は、返事する代わりに新たにグラスを持ってきて、奴に持たせてなみなみと注いだ。 もちろんビールではなく日本酒だ。 ──殴る代わりに潰してやる。 こいつは、卒業式目前に告白した俺に言ったんだ。 『それは、気の迷いだ、そうだろ?  ……大学に行ってさ……大人になれば、また友達になれると思う』 絶対に忘れない。……忘れられるはずもない。 『卒業したらさ、一緒に飲もうぜ、友達だから……だから』 奴も覚えていて、今日、来たのか。飲めば友達だとでも思っているのか。単細胞が。 6年間の苦悩の日々、それでも俺は中谷を忘れられなかった。 そう言ってやったら、あいつはまた俺を残酷にふるのだろう。 俺の猪口に酒が注がれた。 「飲めよ、加藤。久しぶりなんだから……飲もうぜ」 狡くて愛しい奴の笑顔に、飲まずに返せる笑顔を俺は持たない。 ----   [[初めての逆転>16-399]] ----

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