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いたずら
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「お前のことが、好きだったよ。ずっとさ」
笑いながら紘介が言った。口の端が奇妙に歪んで、震えたようにみえた。……気付かない振りをした。
高校時代の友人の結婚式で、5年ぶりに紘介と再会した。
特に何があったわけでもないが、紘介とは大学が離れて以来どちらからともなく連絡をとらなくなった。よくある話だ。
中学高校といつも二人でいて、ワンセットとして扱われていた。部活も同じテニス部で、弱小だったけれど6年間ダブルスも組んだ。当時の自分は屈託がなくて、しょっちゅう紘介にいたずらを仕掛けては二人で笑い転げていた。
大学を離れてからも何度も連絡をとろうとしたのに、メールの文章に悩んで、電話の話題に困って、結局連絡の頻度は減っていった。紘介の口から自分の知らない誰かの話を聞くのも嫌だと思った。
「俺の家近くなんだけど。…明日休みなんだったらさ、うちで飲みなおさない? 泊まっていってもいいし」
結婚式の帰り、声が震えないように気をつけながら誘うと、笑って康平は頷いた。
酒を大量に仕入れて、途切れがちになる話題を埋めるようにとにかく飲んだ。普段なら飲むとすぐ眠くなるのに、鼓動が速くなるだけでちっとも眠くならない。
「今付き合ってるやつ、いるの?」
「……紘介は?」
「いないけど。なんか、忘れられなくてさ。こういうの、言われてお前は引くかもしれないけど」
好きだ、と言われた。
「寝ようか」
「紘介、」
「布団借りてもいい?」
電気を消して部屋に闇が広がると、途端に息遣いが気になり始める。自分が何度も寝返りをうっている内に、紘介は眠ったようだった。
ふと、この前高校のクラスメイトだった友人が電話で話していたことを思い出した。
「紘介はさー優しすぎんだよなー。変なとこ臆病っつーかさ。この前の同窓会、お前も紘介も来なかっただろ? 愛美がさ、あ、今実はこの前の同窓会から愛美と俺付き合ってんだけど。愛美がお前と紘介がそーゆーとこそっくりだって言い出してその話でみんなで盛り上がったんだぜ」
逃げてばかりだった自分に、言う勇気はなかった。「好きだった」と言った紘介の顔を反芻する。
一番最初に二人でダブルスを組んだとき、練習試合で自分が球を取りに行って紘介とぶつかるのが怖かった。二人とも譲り合って、自分の場所から動けなくて、結局その日のスコアは散々だった。
いつからだったんだろう。でもそのときも、最初に踏み出したのは紘介だった気がする。
……手が震える。ゴクッと唾を飲み込むと、紘介が目を覚まさないように体を起こす。
眠っている紘介の顔にはうっすらと髭がはえていて、一緒にいた頃よりも男ぶりがあがった気がした。
唐突に、好きだ、と思った。好きだ。好きだ。…もう、逃げられない。
「……なに」
紘介に気づいたら口づけていた。ぱっと紘介が目を開ける。
一生分の勇気を振り絞って笑った。あの頃みたいに。
「いたずら」
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[[盲目の正義>16-369]]
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