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「そろそろ本気だしていいですか?」 ---- 「そろそろ本気だしていいですか?」 凝ってきた肩と首を鳴らして、あくびをかみ殺した。 社長の手慰みにつきあうのも一仕事だ。 いい大人の男が、もう数年来、昼休憩のゲエムにうち興じているのだった。 昼餉をかき込み終えると、社長はニコニコと道具を出してくる。 最初のうちは碁や将棋といった馴染みの遊びだったが、 マンネリズムを感じたのか五目並べ、回り将棋、将棋崩しと手を変えてきて、 それも回数を重ねて後は、何やかんやと様々なゲエムの類をどこからか持ってきて、 時には説明書きを読み読み、試行錯誤に遊ぶようになったのだ。 西洋骨牌はポオカア、お婆抜きが定番となった。 行軍将棋をやった時は審判役がおらず、二人でやるとこれは揉めた。 野球盤はなにしろ乱暴で、あっさりと破れてしまった。 源平碁は簡単な手順ながら良くできた遊戯であった。 麻雀、花骨牌、西洋双六、チェス……枚挙にいとまがないほどやった。 人類はかくも暇をもてあます生物なるか、と思わず考えさせられるくらい、いろいろなゲエムを社長と遊んだ。 そう、社長の相手はいつも僕だ。こちらは社長と違って、 いつも店内にいて、客に帯を見せたり紐を出したりがそも仕事だというのに、 こうして奥へ引っ込められて、茶まで持ってこさせて、 「柿本君、一番勝負、一番だけだから」 などと言って、調子よく延々つきあわされるのだ。 そのくせ社長は下手の横好きであった。 目新しいゲエムは僕も勘所がわからないが、将棋や碁なら多少の定石は知っている。 そうして指したり打ったりしていると、格段勝ってやろうとか思いもせぬがいつも勝つ。 素人目に見ても、社長の筋は目茶苦茶だろう。 下手な相手と遊ぶのは、それはそれでくたびれるものだ。 大概僕は飽きっぽい方だし、店も気になる。そこで常に良い頃合いで、 「そろそろ本気だしていいですか?」 と社長に宣言する次第だった。終了宣言であった。 今日に限って、社長の返答は否だった。 「駄目だよ」 にやりと笑って、本日のゲエムである碁の盤から目を上げた。 「あんまり早く終わっちゃつまらない、せっかくの時間だよ」 ふ、とその笑みが苦さを加えたものになって、 「酒も煙草も悪い遊びもやらないお前さんが、ただ付き合ってくれるのはこれだけだからな」 ---- [[雪の子>16-249]] ----

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