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丁寧語天然ぼけ優等生×幼なじみで口の悪い不良だけど常識人 ---- ゴトン。ザクッ。何の音だ! すっげー不安。見ててはらはらする。 「おい、なんだその包丁の握り方は」 とうとう我慢できなくなって、まな板に向かう背中に声を掛けた。え?とピンクのエプロンをつけた健也が振り向いて、 包丁の切っ先がひゅっと目の前をかすめる。危なえな! 「そんな持ち方で大根切れんのかお前はよ」 「嫌だなあ、剛くんは黙って待っててくださいよ。今日は僕が家事全部するって約束じゃないですか」 さわやかな笑み。俺は昔から――幼稚園の砂場にいたときからルームシェアを始めた今までずっと、 この笑顔には勝てない。 「さっき洗濯もしましたよ。それから今お風呂にお湯ためてます。ご飯食べたら、入ってくださいね」 「お、おう」 はっきり言おう。健也には生活能力が極端に不足している。いわゆる天然ちゃんだ。 小学校の思い出――給食のお代わりというのは、先生が配ってくれるのを待つものだという、 俺からしたらありえないボケ。自分からプリンを奪う戦いに挑めよ! 中学の思い出――試験は、回答し終えて時間が余っても、ペンを動かし続けなければならないという、 俺には縁遠いボケ。俺はどうせ、時間なんか余りまくりだったさ!答案はほぼ真っ白だったからな。 とにかく、オムツはいてたころから、眼鏡でチビで守ってやらなきゃならない子分だったころ ――そして、俺の身長を抜いて眼鏡も外し垢抜けた今まで、俺は健也の天然っぷりに振り回されてきた。 「剛くん、お風呂見てきてもらえますか」 ザシュッ、と料理らしからぬ音に後ろ髪を引かれながら、風呂場をのぞく。 すると、信じがたい光景が目の前に広がっていた。 「健也お前、なにやらかしたんだ!」 洗濯機は蟹のごとく泡を吹いて震え、浴槽からはお湯が溢れ出てユニットバスの狭い浴室は水浸しになっていた。 目の前が暗くなりそうになるのを必死でこらえ、とりあえず蛇口を閉める。 ばたばたと駆けてきて健也は顔を真っ青にする。 「わあっ、ごめんなさい!うっかりしてました、お湯が溜まるのにどれくらいかかるか分からなくて・・・」 「15分もありゃ溜まるだろうが!それに洗濯機!お前洗剤どんだけ入れたんだよ!!」 「ええ…汚れがひどかったから、山盛り一杯いれました」 「馬鹿!俺はいつも水少なめで洗ってるんだからそれじゃ多すぎんだよ!」 水浸しの床、どうすんだこれ、と大げさにため息をつくと健也はおずおずと口を開いた。 「いつも剛くんにはお世話になってるから、今日くらいは僕が全部お世話してあげようと思ったんですけど」 失敗してしまいました、と、しょんぼり肩を落とすから、俺はなんだか申し訳なく思ってつい、こう答えた。 「馬鹿野郎。お前の面倒は、俺が見てやるっつーの。今まで、ずっとそうだったじゃねーか」 お前の好きなひじきの煮物だっていつでも作ってやるよ。安いスーパー巡るのだってお前のためなら苦じゃねえし。 シャツも、パリパリにアイロンかけてやる。ゴミの分別も俺は超詳しいぜ。 だから、そんな悲しい顔するなよ。 「その代わり、一つ条件がある」 ぴっと人差し指を突きつけて、俺は胸を張る。 「お前はこれからずっと俺のそばにいて、笑顔でいろよ。んで、 その無駄に良い脳みそ使って良い会社入ってバンバン昇進して、俺を幸せにしろよな!」 今は見上げる形になってしまった健也の顔を、両手で挟んでぐっと引き寄せる。 真剣な目に射抜かれて、俺の体が不思議な喜びに震えるのが分かった。 「剛くん…じゃあ、僕のために、毎日おみそ汁を作ってくれますか?」 お決まりのせりふの後、俺たちは軽く誓いのキスをした。 「今日は僕の作ったおみそ汁ですけど、剛くんの口に合うかどうか…」 怪音を発しながら作っていたものの正体はコレだったのか。湯気を立て、一見おいしそうなそれを一口すする。 「げっ、これ何だよ、味がねえ!お前、これ味噌溶いただけだろ!」 「えっ、みそ汁ってそうやってつくるんじゃないんですか?」 「馬鹿野郎!だしを入れろ!」 こいつが家事をやりたいと言い出す限り、逆亭主関白(逆でもないか?)は続きそうである。 ---- [[純情>16-199]] ----

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