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サボテン
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春の暖かい日差しがいっぱいの、俺が住むボロアパートのベランダ。
ここのアパートのベランダは隣二部屋ずつで繋がっていて、
俺の部屋は、今年から一緒に上京した幼馴染の蒼の部屋の隣だった。
蒼くん、一緒の大学に行くのならお隣に住んでくれないかしら、ってうちの親が蒼を説得したのだ。
なんでかわかんないけど。
そんな共用のベランダに、あるものを置こうとしていた俺の背中に、鋭い声が突き刺さった。
「おいてめえ、共用のベランダに何置いてんだ」
蒼の声はいつもトゲトゲしている。俺と話すときは特に。いつもバカって言うし。
あーあしかもこの声は怒ってるな。
「え、えっとね、サボテンだよ~ジャーン!」
蒼の方を振り返りながら変なポーズでサボテンを掲げる。あ、さらに怒った。
「誰が育てんだよ」
「俺ががんばる」
「無理だろーが!いつも放り出してあとは俺がやってやってんだろ!」
「こ、今回は大丈夫だもん!トゲトゲかわいいし、水やらなくてもいいって聞いたし、簡単だもん!」
蒼がでっかいため息をついて俺をにらみつけた。
「バカ、水はやんなきゃなんねーよ。季節ごとにやる量とか注意して、やんなくてもいい時があるってだけだ」
「そう、なんだ……」
「あと花もなかなか咲かねーし、つまんねーぞ、トゲトゲしてるだけで」
「花、咲かないんだ」
「咲くけど、環境が悪かったり十分に育ってなきゃいけなかったり……何十年もかかったりすることもあるらしいし」
「それって、サボテンの花はまぼろしってこと!?俺絶対咲かせる!」
「いや別にまぼろしじゃねーし」
「すごいことだよこれ、咲かせたら願い叶っちゃうって!流れ星見るよりすごいよ!」
サボテンの花にそんな辛い過去があったとは……!
つまり花が咲くのは、蒼が俺に笑ってくれるぐらいすごいってことだよね?
俺の勢いに負けたのか、蒼が諦めた顔で言う。
「……絶対、投げ出さないで育てられんのか?」
「やります!」
「じゃあ俺は絶対何もしないからな、責任持って育てろよ」
そう言うと踵を返して部屋へ戻る……途中で、振り返った。
「あ、あとお前、部屋で奇声上げて笑うのやめろ。ここ壁薄いからうるせぇんだよ」
「わかった、了解です」
びしっと敬礼して言うと、蒼はよしと頷いて、今度こそ部屋に戻っていった。
俺もそれを見送って部屋に戻る。やったあああこれでサボテン育てられる!蒼大好き!
「よーしサボテンに花が咲いたら蒼に好きって言うぞー!」
「さっき壁薄いって言っただろーが!聞こえてんだよバカ!」
真っ赤になって俺の部屋に駆け込んできた蒼もかわいいな。
花が咲く前に願いが叶っちゃいそうです。サボテンさんありがとう!
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