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探偵
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「君が、殺したんだな」
導き出された真実を唇に乗せると、彼は悠然と笑んだ。
「もう解っているんだろう」
焦燥が身体を駆け巡り、体温が上がるのを感じた。掌に汗がじわりと滲む。
「なぜだ、なぜ。俺の知る君はそんなんじゃないだろう」
「これが俺だよ、お前が知らなかっただけさ。俺はずっとあの人を愛していた。
あの人は、妻を娶っても、子供が産まれても、俺を捨ててはくれなかった。だからああするしかなかった。
あの人はもう俺だけのものさ、あの女にも、子供にすら渡しやしない」
くっ、と笑いを噛み殺した彼は、俺の知る彼ではなかった。
「お前がいたからさ」
ゆるうりと、彼は視線をこちらへ戻した。
待ち構えていたかのような眼が、昏く光った気がした。彼は舌先で唇を濡らした。
その様に、じり、と自身のどこかが焼ける音がしたのを聞いた。
「お前なら、暴くと思った。――知っていたか、俺はお前を愛した時もあったんだ」
ああ――知っていたさ、逃げたのは俺だ、真っ直ぐな君の視線から、眼を逸らし続けて遠ざけた。
あんなに心地良い関係を崩せる筈がなかった、君への愛情は君が望むものではなかった、
だから、君が俺の助手を降りるといった時も君を引き止めることはしなかった。
あの時何も言わなかった君は今、こんな風に報いるのか。報いて、堕ちていくのか。
記憶を辿っていた視線が再び交わった。彼が、俺を見ていた。
その眼は深淵そのもので、何も読みとることができない。
あの真っ直ぐに俺を捉えていた眼は、もう過去のものでしかないと解った。
何が君を変えた?
俺が君の心を蝕み、踏み躙ったのか、今はもう物言わぬ男が、君を追い詰め変貌させたのか。
この、じりじりと身を焼いていく嫉妬が向けられた先はどこなのか――。
俺がこれまで暴いてきた真実は今、彼の前で一瞬のうちに灰と化した。
残されたのは、音もなく開いた迷宮への扉のみだった。
掌の汗は、もう引いていた。
じり、とまた、音が、した。
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[[愛馬>16-089]]
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探偵
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「おまえだったのか」
「もう解っているんだろう」
「なぜだ、なぜ。俺の知る君はそんなんじゃないだろう」
「これが俺だよ、お前が知らなかっただけさ。俺はずっとあの人を愛していた。
あの人は、妻を娶っても、子供が産まれても、俺を捨ててはくれなかった。だからやったんだ。
あの人はもう俺だけのものさ、あの女にも、子供にすら渡しやしない」
くっ、と笑いを噛み殺した彼は、俺が知る彼ではなかった。
「お前がいたからさ」
目が、昏く光った気がした。
「お前なら、暴くと思った。知っていたか、俺はお前を愛した時もあったんだ」
ああ知っていたさ、逃げたのは俺だ、ずっと見ないふりをして遠ざけた。
あんな心地良い関係を崩せるはずがなかった、君への愛情は君が望むものではなかった、
だから、君が俺の相棒を降りるといった時も止めなかった。
あの頃何も言わなかった君は今、こんな風に報いるのか。報いて、堕ちていくのか。
俺が君の心を蝕んだのか、赤く染まったベッドの上の物言わぬ男が、彼を追い詰めたのか。
この、じりじりと身を焼いていく嫉妬はどこへ向けられたものなのか。
犯人を捉えた途端に、迷宮への扉は開かれた。
//「君が、殺したんだな」
//導き出された真実を唇に乗せると、彼は悠然と笑んだ。
//「もう解っているんだろう」
//焦燥が身体を駆け巡り、体温が上がるのを感じた。掌に汗がじわりと滲む。
//「なぜだ、なぜ。俺の知る君はそんなんじゃないだろう」
//「これが俺だよ、お前が知らなかっただけさ。俺はずっとあの人を愛していた。
//あの人は、妻を娶っても、子供が産まれても、俺を捨ててはくれなかった。だからああするしかなかった。
//あの人はもう俺だけのものさ、あの女にも、子供にすら渡しやしない」
//くっ、と笑いを噛み殺した彼は、俺の知る彼ではなかった。
//
//「お前がいたからさ」
//ゆるうりと、彼は視線をこちらへ戻した。
//待ち構えていたかのような眼が、昏く光った気がした。彼は舌先で唇を濡らした。
//その様に、じり、と自身のどこかが焼ける音がしたのを聞いた。
//「お前なら、暴くと思った。――知っていたか、俺はお前を愛した時もあったんだ」
//
//ああ――知っていたさ、逃げたのは俺だ、真っ直ぐな君の視線から、眼を逸らし続けて遠ざけた。
//あんなに心地良い関係を崩せる筈がなかった、君への愛情は君が望むものではなかった、
//だから、君が俺の助手を降りるといった時も君を引き止めることはしなかった。
//あの時何も言わなかった君は今、こんな風に報いるのか。報いて、堕ちていくのか。
//
//記憶を辿っていた視線が再び交わった。彼が、俺を見ていた。
//その眼は深淵そのもので、何も読みとることができない。
//あの真っ直ぐに俺を捉えていた眼は、もう過去のものでしかないと解った。
//
//何が君を変えた?
//俺が君の心を蝕み、踏み躙ったのか、今はもう物言わぬ男が、君を追い詰め変貌させたのか。
//この、じりじりと身を焼いていく嫉妬が向けられた先はどこなのか――。
//
//俺がこれまで暴いてきた真実は今、彼の前で一瞬のうちに灰と化した。
//残されたのは、音もなく開いた迷宮への扉のみだった。
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//掌の汗は、もう引いていた。
//じり、とまた、音が、した。
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[[愛馬>16-089]]
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