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サラリーマン×宅配業者
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「済まないけど、それを運び終えたらもう一度来てもらえるかな?」
その日彼はそう言った。
こんな時間に? 今頼まれた分を届け終わったらもう一度?
壁に掛かった時計が示しているのは午後10時をちょっと過ぎた時刻。
配達するのは1件だけで、
それに科せられたタイムリミットの午後11時30分までにはなんとか間に合うが、
それを運んだ後ここへ戻ってくるとなると、
どんなに急いでも往復2時間は掛かるはず。
「実はもう1件あるんだけど、まだ最終チェックが終わってなくて…」
と彼は苦笑しながら机の上の書類を指先でトントンと叩いた。
「君が行って戻ってくるまでの間にチェックを済ませて準備しておくから、
それを先に運んでもらえると助かるんだけど…」
「わかりました、ではそちらをお預かりします」
と封筒を受け取って一礼し、俺はバイクを置いてある駐車場に向かった。
戻ってきたときにはオフィス内の照明は半分、いやほとんど全部消されていた。
さっきここを出る前の喧騒はどこへやら、
辺りはしんと静まり返っていて人の気配が感じられない。
「えーと…主任の高木さん、いらっしゃいますか?」
誰もいない受付の前に立ち、俺は目的の人物の名前を呼んだ。
返事が無い。
仕方が無いので、俺はキーホルダーにつけた小さい懐中電灯で辺りを照らしながら、
いつも案内されている彼のデスクへ向かった。
いた。
彼は俺に背を向けるようにして書類を眺めていた。
デスク周りの仕切りに取り付けられたクリップライトの明かりが、
周りの暗さと相まってスポットライトのように彼を照らしている。
いかにも「仕事のできる男」って感じの背中がすごく格好いい。
仕切りを叩いて合図する。
「あ、君か。早かったね」
と彼は眺めていた書類を机の上の封筒の中に入れ、封を閉じた。
「ちょうど今チェックが終わったところだよ」
と眼を細めて笑う姿が、その体格からは想像つかないくらい可愛かった。
明らかに自分より年上の人物に、
可愛いって表現はちょっと変かなと思うが。
俺は封筒を受け取り住所を聞いた。
さっきの場所に比べたら今度はここからそんなに距離が離れていない。
30分もあれば余裕でたどり着けそうだ。
「これでやっと今日の仕事が終わったよ」
と彼は机の上に散らばったものを片付け始めた。
これが配達し終われば俺も業務終了。事務所に電話を入れて、
それでやっと家に帰れる。
今日は長かったなぁと思ってふうっ…と息を吐いてから、
肝心なことを聞き忘れたのに気がついた。
配達のタイムリミットだ。
「それで…これは何時までに?」
と確認すると、彼の手がふと止まり、
「ああ、それね……」
渡された封筒を俺の手の中から奪うように取り上げ、ガシッと肩を掴まれた。
ちょ、ちょっと、指先が食い込んでて少し痛いんですけど。
彼の顔が至近に迫ってくる。
瞳の中にポカンとした俺の顔が映ってる。我ながらちょっと間抜けだと思う。
「明日の…朝……、10時までに……」
そう言って彼は瞼を閉じた。
え?
俺の口に、柔らかくて温かくて気持ちの良いものが、触れている。
えぇっ?!
明日の朝10時って、明日の朝受け取りだって間に合うじゃないか。
なのになんでこれを今日受け取る必要があるんだ?!
というか、どうして彼は俺の背中に腕を回してるんだ?
もしかして。
もしかしなくても、これって、これって…。
「明日の朝まで私に付き合ってくれないか?
悪いようにはしないから…」
艶のある声で耳元に囁かれ、頭を撫でられた。
吹きかけられる息遣いが、撫でられる大きな手の感触が。
俺の背中を痺れさせ、俺の心を惑わせる。
断る理由なんて考えられなかった。
考えたくなかった。
俺は彼がしているのと同じように、彼の広い背中に腕を回した。
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[[ジ/ャ/ビ/ッ/ト×ト/ラ/ッ/キ/ー >2-159]]
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