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夜桜  ---- こんなにも月の明るい晩に、一人だけで呑むなんて、なんとも味気ないじゃないか。 だから安酒片手に、こうやってふらりと出てきたってわけさ。 行き先?そうだなぁ、花見でもしに行こうか。風流だろう? しかし今日の月は本当に明るいな、 街灯なんて野暮なものは要らないくらいだ。 こんな足元の悪い石段だって、昼と変わらない調子で登れる。 気味の悪いほど静かだなぁ。 そりゃそうだ、この先には墓場しかないからな。 けど、月夜の花見を邪魔する野暮ったい人間も現れやしないから、いいだろう? そら、登りきったぞ。 ああ、見事なもんだなぁ。 こんなさびしい墓場の真ん中に、あんなに古びて大きな桜が咲いてる。 ちょうど具合よく満開だ。全く、素晴らしい晩に出てきたもんだ。 こんな見事な桜、死人だけが楽しむにはもったいない。 生きてるうちにこの景色を見られるなんて、まったく俺は幸せ者だ。 それとも、おまえが俺に見せてくれたのか? こいつ見せようと、お前が俺を呼んだのか? 風もないのに揺れる桜の枝の下、 花びらの散りかかる墓の下に埋まってるお前が。 ----   [[夜桜 >16-049-1]] ----

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