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魔王×天使 ---- 成すべきことを持たない生活を余儀なくされていた。 囚われの身となって三日、時間の感覚は既に希薄であった。 巨大な宮殿の一室に設えられた檻の中から、天使は暗がりを眺めている。 檻を離れた場所から見れば、それが鳥籠を模したものだと気付くだろう。 しかし今の彼にはどうでもいいことだった。 ふいに空間がぐにゃりと歪み、何かが姿を現した。 背に四枚の翼を持つ漆黒の獅子だ。 前肢を揃え優雅に座り込んだかと思うと、獅子は男の姿を成した。 「いつまで、わたしを閉じ込めておくつもりです。」 男は問い掛けに答えず、銀のゴブレットを手渡した。 天使は口を付けようとはせず、両手で包んで顔を寄せる。 「恐怖でひとを縛るとは、あまりに傲慢ではありませんか。」 「異なる価値観を認めずに排除し、盲信を強いるおまえの主は、傲慢ではないか。」 「罰するべきを罰せねば、地上は混沌と化すでしょう。 神は、神を信じる正しき魂を、楽土に導き給います。」 天使は反駁し、男は皮肉げに口元をゆがめた。 「それが真に楽土であると、誰に言えよう。」 魔王は、目の前の美しい生き物を哀れだと思った。 自由を知らず、欲望を知らず、ただ神に仕えて悠久の時を生きるのか。 彼ら天使は、創造主たる神によって一切の執着を禁じられている。 禁忌を犯せば、罪の重さが足を引いて飛べなくなるのだという。 「二度と主の許へ戻れないようにしてやろうか。」 「…出来ますか?貴方に、それが。」 「掟に固執することはない。神の国を棄てて、私のところへ来ればいい。」 魔王は言った。いらえは無かった。 魔王が外套の裾を翻して出て行くと、部屋は再び静寂に沈んだ。 天使の外面は凪いだ湖面のように静かだったか、内面は激しく揺れていた。 『私のところへ来ればいい。』 するりと滑り込むように、迷いは生じた。 意志とは関係なしに、堕ちたその時の歓喜を思い描く。 二度と戻れなくなる、そんな気がした。 確信に近い予感に慄いて目を閉じた。 戻れなくなる。闇に魅入られ堕天した、かつての同胞のように。 冷えきった林檎酒を手の中でそっと温める。 馴染みのないスパイスが思い出したように甘く香った。 異邦の匂いがした。 ----   [[奴隷青年×坊ちゃん(歳の差)か 坊ちゃん×奴隷少年(同年代)>2-709]] ----

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