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桜の木の下で泥酔した二人。 ---- 「だからよぉ、俺はこのままじゃダメなんだよぉ」 「んなこと言ったって、お前元々ダメ人間じゃねーかァ」 見えるのは、提灯に照らされて暗闇に浮かぶ春の花だけ。 聞こえるのは、酒に呑まれたバカ二人、つまりオレとあいつの管巻く声だけ。 いつの間にか他の奴らはどこかに行ってしまって、オレたちだけが地面に寝そべっている。 「なぁ、桜の木の下には死体が埋まってんだってよ」 それまで自分がいかにダメかを熱弁していたあいつが、ふと声を落とした。 「何だよォそれ、どの漫画に出てきたネタだ?」 あいつはオタクだから、時々変なことを言う。茶化すつもりであいつの方に顔を向けると、 「……俺さぁ、お前と一緒に埋まりてぇや」 目が合った、と思ったら、手首を掴まれていた。 「このまま桜が散ってよぉ、花吹雪がどんどん積もってよぉ、なぁんにも見えなくなんだよ。  そしたら俺ら二人、花と土に挟まれて腐って混ざって、肥やしになってこの木に吸い上げられて、また桜に生まれ変わんだよ」 あいつは、オレを見つめたままで歌うようにつぶやいた。 アルコールに浸された脳では、その言葉も意図も何一つ処理できなくて、ただ手首に巻きついた指の熱さだけがリアルだった。でも、 「その花、きっとすげぇ綺麗なんだろうなぁ」 ふたりぶんの死体を隠した桜の花を想像したら、寒くもないのに背筋が震えた。 「……お前って、ほんっとバカだな」 オレの返事を聞いたあいつは、一瞬オレの手首を血が止まるほど締めあげた後、パッと手を離した。 「なんなんだよー一体」 「酔っぱらいの戯言ってやつだ、明日にゃ忘れてろよ」 あいつはそう言って、ごろりと寝返りを打ってオレに背を向けた。 「何だよそれ……っ」 言いかけた文句は、突然襲ってきた睡魔に吸い取られる。 あいつの言う通り、きっと明日にはオレもあいつも全て忘れているんだろう。 またいつもと変わらない毎日が始まるんだろう。 でも、あいつの言葉も、手首の痛みも、 「忘れたく、ねぇなぁ」 そう願いながら、ゆっくりと瞼を閉じた。 ----   [[全部嘘 >28-739]] ----

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