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ひまわり×月見草 ---- 神様はなんであいつの隣に僕を置いたんだろう。 ハルヒコと僕の間には何の共通点もない。 それなのに、家が隣同士というだけで、生まれてこの方13年、僕らはしばしばひとまとめで見られる。 ハルヒコはスポーツ万能だけど、僕は完全なインドア派。 ハルヒコは友だちが多いけど、僕は人と話すのが苦手。 ハルヒコはいつも「楽しそうだね」と言われるけど、僕はいつも「怒ってる?」と聞かれる。 ハルヒコは僕といたがるけど、僕はハルヒコと離れていたい。 「イツキー、絵描きに行こうぜ! 美術の宿題のやつ!」 「……一人で行けよ」 蝉よりもけたたましく上がり込んできたハルヒコを、僕は冷ややかな声で追い払おうとする。 「だって一人じゃつまんねーし。こういうのってパパっと終わらせたいじゃん」 「僕は僕で宿題計画立ててんだよ。こっちの都合ってもんが――」 イラッとして思わずあいつを見遣ったのが運の尽き。 「一緒に来いよ。な?」 暴力的なまでに朗らかな、ハルヒコの笑顔にぶつかった。 「……暑いのは嫌なんだけどな」 この笑顔はなぜか、僕の思考を強制終了させるんだ。 近所の公園は、夏休みを満喫する子供たちでいっぱいだった。 「で、何描くんだよ」 と聞こうとした時には、 「なぁイツキ、このひまわりでけえ! 俺の顔くらいある!」 ハルヒコは勝手に花壇の方に駆け出していた。 ぎらぎらと輝く太陽の下、伸び伸びと咲くひまわりのそばで手を振るあいつを見てると、 「……っ」 心がチリリと焦げる気がした。あいつの眩しさが、そうさせた。 「俺これ描くわ。お前も一緒に描くか?」 「いや、僕は……」 目が吸い寄せられたのは、ひまわりの花壇の脇。背の低い、みっともなくしおれた花々が頭を垂れている。 「あ、月見草だ。前じーちゃんちで見せてもらって――イツキ?」 「この花、僕みたいだ」 ひまわりのそばで縮こまっている月見草。それは、ハルヒコの陰にいる僕と同じくらい、ひどく場違いに見えた。 「確かに、お前と月見草はお似合いだな」 ふいに聞こえたハルヒコの言葉が、胸に突き刺さった。自分で思うのと、あいつから言われるのじゃ、重さが違う。 「……そうだよ、どうせ僕はひまわりになれない」 言い捨てて、くるりと背を向ける。 「あっ、おいイツキ!?」 背後であいつがなにか叫んでいたが、聞いてられなかった。自分がみじめで仕方なかった。 夕食もとらずに部屋に籠っていると、ノックもなしにドアが開けられた。 「イツキ! 行くぞ!」 現れたハルヒコは、「どこに」と尋ねる暇もなく僕の腕を取ると、「おばさん、すぐ戻るから!」と叫びながら玄関を飛び出した。 日が落ちきった街を、息を切らせながら走る。ハルヒコに腕を掴まれてるから、自分では出せない速度だ。 足がもつれそうになりながら辿り着いたのは、昼間来た公園だった。 「な、んだよ、いきなり……」 息も絶え絶え、完全に動けなくなった僕を前に、ハルヒコはきまり悪げに頬を掻いた。 「俺さぁ、よく『言葉が足りない』とか『考えずにものを言う』とか言われてるじゃん。  昼間もそのせいでお前に嫌な思いさせたみたいで、ごめん!」 勢い良く頭を下げられたから、 「そんな、僕こそ、急に帰ってごめん」 戸惑いながらも、するりと謝罪の言葉がこぼれる。 「気にすんなって。それよりさ、俺が月見草見たの、夜だったんだ」 「え?」 「だから、ほら」 そう言ってハルヒコが指さした先を見て、僕は息を呑んだ。 夜風に揺れる、やわらかな花びら。月と同じ淡い黄色が、宵闇の中にいくつも浮かび上がっている。 「これが、月見草……」 確かに、ひまわりとは似ても似つかない。でも、僕はこの花を、美しいと思った。 「そう。イツキに、よく似合うよ」 ハルヒコはそう言って、にっこりと笑った。 月明かりの下で見るその笑顔は、いつもよりもどこか優しげで、 「男で花が似合っても、しょーがねーだろ……」 照れ隠しの悪態にも力が入らなかった。 「なあ、今から描かねぇ? 画材取りに戻ってさ」 「僕はいいけど。お前はどうすんだよ」 「夜のひまわりってのも乙なもんだろ!」 「そういうもんかなぁ……」 誰もいない公園で、誇らしげに咲く月見草と、それを見つめるひまわりだけが、僕らの会話を聞いていた。 ----   [[ホワイトデーの支度 >28-609]] ----

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