※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

「28-589」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

28-589」の最新版変更点

追加された行は青色になります。

削除された行は赤色になります。

+ひまわり×月見草
+---- 
 
+神様はなんであいつの隣に僕を置いたんだろう。
+
+ハルヒコと僕の間には何の共通点もない。
+それなのに、家が隣同士というだけで、生まれてこの方13年、僕らはしばしばひとまとめで見られる。
+ハルヒコはスポーツ万能だけど、僕は完全なインドア派。
+ハルヒコは友だちが多いけど、僕は人と話すのが苦手。
+ハルヒコはいつも「楽しそうだね」と言われるけど、僕はいつも「怒ってる?」と聞かれる。
+ハルヒコは僕といたがるけど、僕はハルヒコと離れていたい。
+
+「イツキー、絵描きに行こうぜ! 美術の宿題のやつ!」
+「……一人で行けよ」
+蝉よりもけたたましく上がり込んできたハルヒコを、僕は冷ややかな声で追い払おうとする。
+「だって一人じゃつまんねーし。こういうのってパパっと終わらせたいじゃん」
+「僕は僕で宿題計画立ててんだよ。こっちの都合ってもんが――」
+イラッとして思わずあいつを見遣ったのが運の尽き。
+「一緒に来いよ。な?」
+暴力的なまでに朗らかな、ハルヒコの笑顔にぶつかった。
+「……暑いのは嫌なんだけどな」
+この笑顔はなぜか、僕の思考を強制終了させるんだ。
+近所の公園は、夏休みを満喫する子供たちでいっぱいだった。
+「で、何描くんだよ」
+と聞こうとした時には、
+「なぁイツキ、このひまわりでけえ! 俺の顔くらいある!」
+ハルヒコは勝手に花壇の方に駆け出していた。
+ぎらぎらと輝く太陽の下、伸び伸びと咲くひまわりのそばで手を振るあいつを見てると、
+「……っ」
+心がチリリと焦げる気がした。あいつの眩しさが、そうさせた。
+「俺これ描くわ。お前も一緒に描くか?」
+「いや、僕は……」
+目が吸い寄せられたのは、ひまわりの花壇の脇。背の低い、みっともなくしおれた花々が頭を垂れている。
+「あ、月見草だ。前じーちゃんちで見せてもらって――イツキ?」
+「この花、僕みたいだ」
+ひまわりのそばで縮こまっている月見草。それは、ハルヒコの陰にいる僕と同じくらい、ひどく場違いに見えた。
+「確かに、お前と月見草はお似合いだな」
+ふいに聞こえたハルヒコの言葉が、胸に突き刺さった。自分で思うのと、あいつから言われるのじゃ、重さが違う。
+「……そうだよ、どうせ僕はひまわりになれない」
+言い捨てて、くるりと背を向ける。
+「あっ、おいイツキ!?」
+背後であいつがなにか叫んでいたが、聞いてられなかった。自分がみじめで仕方なかった。
+夕食もとらずに部屋に籠っていると、ノックもなしにドアが開けられた。
+「イツキ! 行くぞ!」
+現れたハルヒコは、「どこに」と尋ねる暇もなく僕の腕を取ると、「おばさん、すぐ戻るから!」と叫びながら玄関を飛び出した。
+日が落ちきった街を、息を切らせながら走る。ハルヒコに腕を掴まれてるから、自分では出せない速度だ。
+足がもつれそうになりながら辿り着いたのは、昼間来た公園だった。
+「な、んだよ、いきなり……」
+息も絶え絶え、完全に動けなくなった僕を前に、ハルヒコはきまり悪げに頬を掻いた。
+「俺さぁ、よく『言葉が足りない』とか『考えずにものを言う』とか言われてるじゃん。
+ 昼間もそのせいでお前に嫌な思いさせたみたいで、ごめん!」
+勢い良く頭を下げられたから、
+「そんな、僕こそ、急に帰ってごめん」
+戸惑いながらも、するりと謝罪の言葉がこぼれる。
+「気にすんなって。それよりさ、俺が月見草見たの、夜だったんだ」
+「え?」
+「だから、ほら」
+そう言ってハルヒコが指さした先を見て、僕は息を呑んだ。
+夜風に揺れる、やわらかな花びら。月と同じ淡い黄色が、宵闇の中にいくつも浮かび上がっている。
+「これが、月見草……」
+確かに、ひまわりとは似ても似つかない。でも、僕はこの花を、美しいと思った。
+「そう。イツキに、よく似合うよ」
+ハルヒコはそう言って、にっこりと笑った。
+月明かりの下で見るその笑顔は、いつもよりもどこか優しげで、
+「男で花が似合っても、しょーがねーだろ……」
+照れ隠しの悪態にも力が入らなかった。
+「なあ、今から描かねぇ? 画材取りに戻ってさ」
+「僕はいいけど。お前はどうすんだよ」
+「夜のひまわりってのも乙なもんだろ!」
+「そういうもんかなぁ……」
+誰もいない公園で、誇らしげに咲く月見草と、それを見つめるひまわりだけが、僕らの会話を聞いていた。
+
+----   
+[[ホワイトデーの支度 >28-609]] 
+----