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顔も名前も知らないあの人 ---- 俺は小さな頃から祖父に懐いていた 一緒に本を読んだことや眼鏡を掛けたら若い頃の祖父に瓜二つだといわれて嬉しかったことを今でも覚えている 祖父が亡くなったのは先週のことだ 事故だった とはいってもそれなりに長く生きていたし突然のことに驚きはしたものの案外冷静に受け止められた 葬儀も終わり落ち着いて実家から帰った次の日 俺の簡素な1Kに大量の段ボールが送られてきた 「お父さんの部屋にたくさんあってさ~中ぜーんぶ本みたいだから、おまえ好きだろ?棚にあったのも詰めといたぞ!」 急に狭苦しくなった部屋でとりあえず一箱開けてみる 一番上の古古しい本に手を伸ばす 発行日を見ようと本を開くと一通の手紙が滑り落ちた 「僕は貴方を振ったけど今でも貴方を愛しています」 「お互い妻に先立たれた今貴方と共に余生を送りたい」 …これはそういうことだよな それにしては日付も住所もないけれど 淡い期待を持ってその本の下の本の裏表紙を開いてみる 今度は遊びに直接 「××月××日××時××図書館二階のカフェで待ってる」 「貴方のくれたこの本を返すつもりでいいので来て欲しい」 その他数冊に挟まれた短い手紙の中にも数十年に渡るであろう祖父への様々な思いが綴られていた これをみて祖父はどんな反応をしたのだろう 行くつもりだったのだろうか… この手紙を書くときどんな気持ちでいたのだろう どんな思いで今まで過ごしていたのだろう 今週の日曜日眼鏡を掛けて会いに行こう 祖父が恋した顔も名前も知らないあの人に ---- [[アラビアン>27-609]] ----

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