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不細工な蜘蛛と真っ白い蝶
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モンシロチョウのクリームがかった白い羽がホコリとガラス片にまみれて床に落ちていた。
どこにでもいる蝶で、小さくて、蜘蛛の巣にかかって暴れているところを捕まえたために
羽も傷んでいるそれは標本としての価値はもともと薄い。
けれどこの生物部に入って最初に作ったこの蝶の標本は、俺の宝物だった。
だからこそ食われたり湿気ったりしないように環境の整った理科室に置かせてもらっていたのに。
「久保田」
声とともに肩に置かれた手にびくりと体が跳ねる。いつの間にそこにいたのか、
同級生の葉桐がこちらを見下ろしていた。
「それ、誰がやったの」
答えず、また俯く。知っているくせに、という言葉は飲み込んだ。
知っているくせに。
俺が虐められているのも、その主犯がお前に片思いしてる女の子だってのも、
その理由がこうやってお綺麗なお前が正反対の俺にかまうからだってのも、知っているくせに。
なのになんでまだ俺に寄ってくるんだ。
答えない俺に焦れたように肩の手に力がこもる。
「ね、言って。久保田が僕に助けてって言ってくれたら、僕はなんでもするから」
嫌だ。絶対に、お前にだけは頼りたくない。
「僕を利用してよ、久保田。一言でいいんだ、君が僕を選んでくれれば、それで」
「止めろ!」
振り払うその動きだけで、なぜか息が上がった。緊張のせいかもしれない。
「これは俺の問題だ、もう近寄るな!」
怖い。葉桐の執着が。葉桐の献身が。
全てを俺に捧げんばかりの、その感情がどこから来ているのかわからないのが、怖い。
いっそ裏があるといってくれればいいのに、その目には一切の影もない。
あるのはただ、俺に対する純粋なまでの執着で。
いつの間にか振り払ったはずの手がすがるように俺の首に回されていて、
その病的なまでに白い肌が足元に落ちた蝶に重なって、何故だかひどく泣きたくなった。
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[[いつも色んな事で泣かされる受け>28-349]]
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