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ハーゲ○ダッツを買い込む客とコンビニ店員 ---- よれっ……と効果音の書き文字をつけたいような姿だった。 コートには雨が滲みて、髪もびしょびしょで、寒いのか顔色も悪くて、目の回りだけが赤い。 深夜2時過ぎの住宅街のコンビニに、客なんか滅多に来ない。ましてや今夜は雨だ。 そこへきてそのサラリーマンらしい男が棚のハーゲ○ダッツを全部、全種類カゴに入れて持ってきたので、普段客に干渉したりなんかしない松永だったが思わず「すごいっすね……」と話しかけてしまった。 「……大好きなんだよ、悪いか」 男が気分を害したようだったので、しまったと思い黙る。ピッ、ピッ、と次々にハーゲ○ダッツをレジに通すと 「……以上、37点で11273円です」 と男に告げた。 男は万札2枚を叩きつけると「釣りはいらない」といった。 「や……あの、困るんですけど」 「だっていらないもん」 「はあ……」 いつもならそういう金は寄付金に放り込むのだが、なにせ金額が多すぎる。 「いいから取っておけ、俺、使うあてないんだよ」 「怒られますよ俺」 「黙ってとっとけ……いーんだよ、俺なんか、もう」 とりあえず男が自暴自棄なのが松永にもわかった。 「あーあ……クリスマスの予定も空いちゃったし、欲しかった限定フレーバーもないし、俺ついてない。お前んとこ種類少ない、俺、これからクリスマスまでずっとこれ食い続けるのに」 あと4日もあるのに。松永はあきれた。 こいつ、酔っぱらいで、女に振られて、自棄になってコンビニ店員に絡んでるんだろう。タチ悪い。 「お腹壊しますよ」 「いいんだよ、壊れた方が」 なんてダメ人間。松永はあほらしくなった。 「とにかく、おつりはもらってくださいよ、ほんっと俺困るんっす」 接客マナーはこの際必要ない。男の手をとって釣りを無理矢理握らせようとした。 「冷た……」 男の手の温度はハーゲ○ダッツと変わらない。こんな状態でアイス買って食べるって? 自殺行為という言葉が松永の脳裏をよぎる。 「ちょ、おっさん、死ぬぞ」 「誰がおっさんだ、お前接客なってないぞ」 「いいからこれ。食って、今すぐ」 松永はほかほかの肉まんを押しつけた。男が手に取らないので、口元にもっていって既成事実にしてしまう。 「あー、わかった。んじゃね、この釣りで肉まん売ってやる。カップスープも。  あんた何が好き?あったかい物で。ほんで持って帰ってすぐ食って風呂入れよ」 「いやだ、なんでお前に命令されないといけないの」 「だっておっさん死ぬって、マジで。なにがあったか知らないけど、ハーゲ○ダッツもそんな食い方じゃもったいないだろ、  もっと味わって食ってよ」 「だって……」 男は肉まんをもぐもぐ食べながら、さっきまでの勢いはどこへやらだ。 「……俺、俺なんか」 「何?なんか寂しいの。ふーん、クリスマス?わかったわかった、どーせ俺、ずっと深夜帯だからさ、  遊びに来れば……とりあえずこのハーゲ○ダッツ、返品するか冷凍庫に入れるかしていい?」 「いや、それは買うよ、いったん買ったんだし」 「じゃ、冷凍庫に取り置いてやる。毎日来いよ?待ってるから」 松永は我ながらおかしなことになった、と思った。 松永は、シフト終了時毎回1個買う習慣にしているくらい自分も好きなハーゲ○ダッツを、大好きだという男に親近感を持っただけなのだ。 「釣りの残りも置いておくから。好きなの買えよ、絶対来いよ!」 ----   [[サンタクロース>28-209]] ----

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